福岡の小売「トライアル」創業者、株価上昇でビリオネアに
福岡市に本社を置く小売り大手「トライアルホールディングス」は3月21日、東京証券取引所グロース市場で新規株式公開(IPO)を実施し、2億5800万ドル(約390億円)を調達した。同社の株価は、それ以来約41%上昇し、創業者の永田久男(67)をビリオネアの地位に押し上げた。フォーブスは、トライアル社の78%を所有する永田の保有資産を約12億ドル(約1800億円)と試算している。 トライアル社は食品や衣料品、その他の日用品を低価格で販売するスーパーマーケットを日本全国で300店舗以上展開している。その店舗形態は、まとめ買いができる倉庫スタイルの「スーパーセンター」から「トライアルGO」と呼ばれる小型のコンビニエンスストアまで多岐にわたる。同社の2023年6月期の売上高は前年比9.7%増の6531億円で、純利益は13.2%増の1252億円だった。 早くから人工知能(AI)の導入を提唱した永田は、顧客の購入パターンの分析や在庫管理にAIを活用する取り組みを主導してきた。また、コロラド州立大学を卒業した永田の41歳の息子の洋幸が率いる子会社のリテールAIの指揮下でトライアル社は、IoTソフトやAIカメラ、スマートショッピングカートなどのデバイスも開発している。現状で、トライアル社のスーパーマーケットの3分の2近くが、テクノロジーを組み込んだ「スマート店舗」になっている。 「小売業でAIを使わないという選択肢はない。リテールAIの分野に注力しなければ、この国は沈むと思う」と永田は2019年の地元メディアのインタビューで述べていた。
1980年代からDXに注力
より安価で性能を高めたセンサー技術が台頭する中で、永田はさらにAIへの注力を加速させている。トライアル社は1月、日本のハイテク大手NECと共同で、レジカウンターにAIを活用した顔認識システムを試験的に導入すると発表した。同社はまた、店舗のスタッフのコミュニケーション・プラットフォームに生成AIを組み込むことも検討している。 ■1980年代からDXに注力 永田のルーツは小売業だ。彼の父親は1974年に福岡で古着屋「あさひ屋」を開業し、1981年に当時25歳だった永田は同店を任された。永田はその3年後にトライアルカンパニーを設立し、小売業のデジタルトランスフォーメーション(DX)技術に焦点を当てたソフトウェア開発会社も立ち上げた。トライアル社のディスカウントストア1号店は1992年にオープンした。そして2018年に日本初の無人の24時間スーパー「トライアルクイック」をデビューさせた。 「20代の失敗を通して、私はビジネスのあるべき姿を悟りました。それは、自分の利益を追求するのではなく、顧客のために事業を行うという姿勢です。私はこの信念を疑ったことは一度もありません」と永田は自社のウェブサイトで述べている。 メディアへの露出が少ないことで知られる永田は、小売業のAI活用やデジタル化に関する書籍を執筆しており、2022年にはトライアル社での経験を交えて流通ビジネスについて語った書籍の『勝ち残るためのリテールDX トライアルグループが挑む新・流通革命小売業のデジタル変革を勝ち抜く方法』を出版した。永田はまた、スーパーマーケットだけでなく、不動産やレストラン、リゾート事業にも進出している。 株価の上昇を受けてここ1年で日本は新たな富豪を生み出しており、丸亀製麺のトリドールホールディングスの創業者でCEOの粟田隆也(62)やM&A仲介事業を行うM&A総研ホールディングスの創業者でCEOの佐上峻作(32)らがビリオネアの仲間入りを果たしている。
Catherine Wang