7度目の正直 女流棋士・向井千瑛が強くなった理由
七転び八起きという言葉がある。何度失敗しても、諦めずに立ち上がることを意味する格言だが、実際の人生で何度も失敗しても立ち上がれる人、そしてそこで結果を残せる人はどれだけいるだろうか。 今年10月から11月にかけて行われた、囲碁の第32期女流本因坊戦。女流棋士の向井千瑛(むかいちあき)は、友人で同期入段のライバルでもある謝依旻(シェイ・イミン)女流三冠に挑戦し、初タイトルを獲得した。5年前に初めてタイトル戦に挑戦してから、7度目の挑戦。そのうち謝に挑戦すること6回。悲願の初タイトルだった。
現在、囲碁の女流タイトルは、女流本因坊、女流名人、女流棋聖の3つ。謝は女流碁界のトップを走る存在で、女流名人・女流本因坊のタイトルを6連覇しており、向かうところ敵なしだった。そんな謝に向井が初めて挑戦したのは3年前。女流名人戦三番勝負でのことだった。当時は2連敗で敗退。その後3年間で5回謝に挑戦するものの、いずれも、第一人者に実力の差を見せつけられるような内容で敗れた。 向井に力がないというわけではない。テレビ対局では男性棋士を次々と破るなど、女流棋士として誰もが認める実力の持ち主だ。だが五番勝負や三番勝負の初戦で白星を挙げることはできても、逆境に強い謝の底力には及ばず、タイトルには届かなかった。 何度も同じ相手に敗れ、なかなかタイトルに届かない状況に向井は、自問自答する。 「タイトル戦に出ても勝てないような自分が、挑戦者でいいのだろうか。本当はこの場にふさわしいのは自分ではなく、別の人なのではないか」 答えはすぐに出た。昨年、それまで向井が謝に連続挑戦していた女流本因坊戦で、謝・向井と同期入段のライバル、奥田あやが挑戦者になったのだ。自分ではない、ライバルが挑戦者になったのを見て、向井は感じたという。 「やっぱりあの場に立ちたい。謝ちゃんに挑戦したい」 向井は昭和62年生まれの26歳。三姉妹の末妹として生まれた。姉2人(長女・芳織 次女・梢恵)も棋士で、幼い頃から姉妹で囲碁を学ぶ、囲碁一家で育った。元来おっとりした性格で、「何か質問すると、じっくり考えてから話すので、言葉が出てくるまでに少し時間がかかるんです。でもそれが千瑛のペースだし、みんなわかっているから」と長女・芳織は語る。しっかり者の姉2人に囲まれ、マイペースで芯の強い子に育った。