ヤマト「業績悪化で赤字転落の可能性もあるため」 日本郵便が「120億円訴訟」に至った両社の言い分
業務の移管に当たり、ヤマトの荷物は日本郵便側の仕様に合わせることになり、引き受けられない荷物が増えた。日本郵便に流れた顧客は多く、メール便は移管のタイミングで激減していた(取扱数は2024年2月に前年同期比84%減)。 クロネコゆうパケットについても、移管でネコポスより配達日数が延びるため、より早く届く日本郵便の「ゆうパケット」へ顧客が流れた。両社で配達日数を短縮すべく改善策を講じたが、うまく進まなかった。
日本郵便の担当者は「10月から取り組みを始め準備していたが、ヤマトからの荷物がほとんどなかった」と説明する。 ■ヤマトは移管に伴い顧客が離反 移管に伴う顧客の離反はヤマトにとって想定以上だった。ここは見通しが甘かったといえるだろう。 メール便もネコポスも顧客流出が続く。宅配便も苦戦し、2024年度の中間決算(4~9月)で150億円の営業赤字に転落。苦境を受けて、停止の申し入れに至ったという事情だった。
ヤマトはクロネコゆうパケットの移管を問題視した理由を「従前より配達までの日数が延びてしまう事態が発生している」としており、それ以外の公式な主張を避けている。 日本郵便とは役員を含めてかなりの回数の協議をしてきたはずだが、なぜ完全移管を目前に控えた10月になって停止を申し入れたのか。完全移管について法的な義務はないと主張した真意などは見えない。 仮に移管を停止できたとしても勝ち筋は薄い。ヤマトの自社戦力は2トン、4トントラックが中心で小型荷物の投函には不向きだ。小回りの利くバイクを駆使する日本郵便の機動力は上回れず、だからこそヤマトは移管を決意したはずだった。
■単なる2社提携にとどまらない 物流業界は長年、安値での荷物獲得競争を繰り広げてきた。ライバル同士だった大手2社の全面的な協業は、安値競争の時代が終わり、人手不足で荷物を運べないリスク、業務の効率化、環境問題へ対応していく象徴的な動きとみられていた。単なる2社提携にとどまらない重要な意義があった。 日本郵政の増田寛也社長は、定例会見で「ヤマトとよく協議し、乗り越えなくてはならない。社会的な要請に応え、大手で協業の精神を出さないといけない」と言及するなど、今後も協議を続ける姿勢だ。
日本郵便はかつて日本通運の宅配便事業「ペリカン便」を吸収したが、初日から大量の遅配が生じた苦い経験を持つ。大手同士の提携や業務の移管にトラブルはつきものなのだ。 このまま頓挫すれば、逆に「変われない物流業界」を示すことになりかねない。両社とも冷静な視点が欠かせない。
田邉 佳介 :東洋経済 記者