「ゴロフキンと同じ」世界的カメラマンが語る井上尚弥のすごさ 5・6に東京Dでネリ戦
◆プロボクシング ▽WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級(55・3キロ以下)タイトルマッチ12回戦 4団体統一王者・井上尚弥―WBC同級1位ルイス・ネリ(5月6日、東京ドーム) 東京ドームで34年ぶりとなるプロボクシング興行のゴングが、5月6日に鳴る。メインで、世界4団体スーパーバンタム級統一王者・井上尚弥(31)=大橋=がルイス・ネリ(29)=メキシコ=の挑戦を受ける4大世界戦のメガファイトを、スポーツ報知では「導夢決戦」と題して連載する。第1回は世界的カメラマンの福田直樹氏(58)。ボクシング界で最も権威のある米メディア「ザ・リング」や世界最古の専門誌・英「ボクシング・ニュース」の表紙を飾ったプロフェッショナルに尚弥の魅力を聞いた。 井上尚のすごさを“特等席”ともいえるリングサイドで感じてきた。米国で年間400試合以上撮影した経験があり、多くのスーパーファイトをファインダー越しに見てきた福田氏。5月6日の4大世界戦では、メインディッシュとして「モンスター」を狙う。 独特の間やリズムを持つ、メキシカンやアフリカ系米国人と違い、井上尚の動きは「ブレも癖もない。日本人が目指しているお手本のボクシング」と絶賛する。教科書通りのガードの位置、丹念なジャブからワンツー、ボディー、左フック。守りも堅い。それでいて「倒すパターンが絞れない。(元ミドル級王者)ゲンナジー・ゴロフキンや(元ライトヘビー級王者)セルゲイ・コバレフと同じ。かすっただけで倒してしまう」。全てのパンチに予備動作がなく一撃必殺。一瞬たりとも気を抜けない。ボディーも「破裂音がする」と驚きを隠さない。 衝撃的な光景を収めた。昨年7月25日、井上尚がWBC、WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(米国)に挑戦した東京・有明アリーナでの一戦。8回、助走をつけてジャンプするなり左フックでダウンを奪った一枚。ボクシングではなかなか見られない、両足が宙に浮いたパンチだった。「すごい速さで走ってきて、跳んでパンチを当てるなんて普通はできない。あの写真は国内外で反響がすごかった」 東京ドームは、22年の那須川天心(25)=帝拳、現WBA世界バンタム級7位=と武尊(32)が激突したキックボクシングの一戦でシャッターを切った。また、海外のドーム興行での撮影経験も豊富。2010年3月に5万994人の大観衆を集めた元世界6階級制覇マニー・パッキャオ(フィリピン)とジョシュア・クロッティ(ガーナ)の激戦舞台となったカウボーイズ・スタジアム(米テキサス州アーリントン=現AT&Tスタジアム)や、約5万人収容のカナダ・ロジャーズセンターでもシャッターを切った。 ドーム球場は「音の伝わり方が違う。リングサイドからの大歓声の後、スタンドの声は遅れて、波のように何重かに響いて地鳴りのよう」と体感した。別世界にいるような「夢見心地になってしまう。意識をしっかり保つことが必要」と言い聞かせる。キャンバスを見上げながら被写体を狙う上で、広告の看板など多種多様な照明への考慮も必要で、大規模会場ならではの注意ポイントがあるという。 福田さんはメインを「ネリは(撮影していて)顔がよく空いている。左を打った後の(井上尚の)カウンターで決まるのでは」と早期決着を予想した。「一枚一枚が歴史の瞬間になる。東京ドームならではの広さを感じさせる一枚を撮りたいですね」。福田さんにとっても大一番がいよいよ始まる。(戸田 幸治) ◆運が90%以上 〇…福田氏は「ボクシングの撮影は運が90%以上」と話す。試合で最高の運を引き寄せるため、試合前はわざとまずい物を食べたり、怪談ばかりを聞いて悪いことが起きるようにしむけることもあるという。また、「ビッグイベントのファイトウィークは自宅に帰りません」。今回も集中するため、1週間都内の仕事部屋にこもり、5月6日に備えている。 ◆福田 直樹(ふくだ・なおき)1965年7月15日、東京都生まれ。58歳。幼少時からボクシングを見始める。大学在学中に専門誌でライターとして従事し、2001年に写真家に専念するため、ラスベガスに移住。米国内を回り、年間400試合以上を取材。08年から米専門誌「ザ・リング」の専属カメラマンを8年間務めた。全米ボクシング記者協会の最優秀賞を4度受賞。12年にはWBCの年間最優秀カメラマン賞に選出された。現在は日本ボクシングコミッションのオフィシャルカメラマンなどを務める。
報知新聞社