Think Differentの源流。ホール・アース・カタログがAppleに与えた影響とは?
フラーは「20世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチ」
フラーは1960年代以降、大学生たちの憧れの存在となっていました。フラーが発明家として評価されたきっかけは、ジオデシック・ドーム(正多面体を細分割してつくった構造物)を考案したことです。 しかし、フラーの影響力を決定的にしたのは、カウンターカルチャー向けの書籍やツールを紹介する大判雑誌『全地球カタログ(ホール・アース・カタログ)』です。 フラーの思想を反映して創刊されたこの雑誌を、大学時代のジョブズやコッケは夢中になって読んでいました。 ジョブズはのちにこの雑誌を、「私たち世代のバイブル」と評しています。 フラーがアップルに及ぼした影響は、さらに根本的な部分にも見てとれます。ジョブズのパートナーとしてアップルを共同創業したスティーブ・ウォズニアックは、のちにフラーを「20世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称賛しています。
Appleのデザインにも影響を与えた
ウォズニアックとジョブズは、「Apple II」の筐体を手がける工業デザイナーとしてジェリー・マノックを採用しました。 スタンフォード大学の有名なプロダクトデザインプログラムで学んだマノックは、のちにアップルのインダストリアルデザイングループの礎を築いた人物です。マノックはデザインに関して、フラーの影響を受けた反復的なアプローチを取り入れたと語っています。 フラーは、ひとつの小さなデザインの問題だけを解決することには興味がありませんでした。彼は、そのひとつ上のレベル、さらに上のレベル、そのまた上のレベルへと目を向けるのです。
Think DifferentのCMにも登場
ジョブズがアップルに復帰してまもない1997年9月28日、アニメ映画『トイ・ストーリー』のテレビ初放映時に、アップルのCMが流れました。 マーティン・ルーサー・キング・ジュニアやパブロ・ピカソなど、錚々たる有名人が次々と登場する映像に合わせて、ナレーターの俳優リチャード・ドレイファスがアップルの理念を語りかける内容です。 「クレイジーな人たちに祝福を。はみ出し者。反逆者。トラブルメーカー。場になじめない人たち。異なる見方をする人たち」 このCMに登場した17人のうちの1人が、バックミンスター・フラーです。 フラーの前にはジョン・レノンとオノ・ヨーコが、フラーのあとにはトーマス・エジソンが登場します。カウンターカルチャーとエスタブリッシュメントの両サイドから尊敬を集めたフラーにふさわしい順番です。 アップルが提唱した「Think different」は、コンピューターを売るための広告スローガンでしたが、同時に、フラーが体現する真のビジョンを伝えるものでもありました。フラーは良くも悪くも、ほとんどの人と異なる考え方をした人物です。 CMのナレーションはこう続きます。 あなたたちは、彼らの言葉を引用することもできる。彼らに異を唱えることもできる。彼らをもち上げることも、こき下ろすこともできる。 そして、CMは最後にこう結ばれます。 おそらく唯一、あなたたちができないことは、彼らを無視することだろう。なぜなら、彼らは物事を変えてしまうからだ。彼らは人類を前進させる。 彼らをクレイジーな連中だと見る人もいるが、私たちは彼らを天才だと思う。自分が世界を変えられる、と信じるほどにクレイジーな人たちこそが、本当に世界を変えていくのだから。 Originally published by Fast Company [原文] Copyright © 2022 Mansueto Ventures LLC.
遠藤康子(ガリレオ)