なぜ「解雇規制」は猛反発されるのか。“クビ自由化”と格闘した日本のこれまで
「解雇規制」の見直し政策に賛否両論が巻き起こっている。 議論のきっかけになったのが、自民党総裁選の出馬会見で小泉進次郎元環境相と河野太郎デジタル相が「解雇規制」の見直しについて発言したことだった。 【全画像をみる】なぜ「解雇規制」は猛反発されるのか。“クビ自由化”と格闘した日本のこれまで 一言で「解雇規制の見直し」と言っても、両氏の考え方は大きく異なっている。 両氏の主張を踏まえつつ、これまで日本ではどのように「解雇規制」が議論されてきたのか振り返ってみたい。
「不可欠な労働市場改革の本丸」
小泉氏の見直しは、経済界が2000年初頭から長年訴えてきた「日本企業の六重苦」の1つである「厳しい労働・解雇規制」の改革である。 小泉氏は出馬会見でこう言っている。 「現在の解雇規制は、昭和の高度成長期に確立された裁判所の判例を労働法に明記したもので、大企業については解雇を容易に許さず、企業の中での配置転換を促進してきました」 その上でこう話す。 「日本経済のダイナミズム取り戻すために不可欠な労働市場改革の本丸である解雇規制の見直しに挑みたいと思います」 「裁判所の判例を労働法に明記したもの」とは、労働契約法16条の「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という、いわゆる「解雇権濫用法理」の規定である。 抽象的であるが、従業員を解雇するには、客観的に合理的理由が必要だということだ。 ただし似たような法律の規定は、解雇自由のアメリカを除いてヨーロッパ諸国にもある。 たとえばドイツには「解雇制限法」の1条1項に解雇は「社会的に正当なものであること」と規定され、社会的正当性を欠く不当な解雇は法的に無効という解雇規制がある。 仮に日本の労働契約法16条の規定をなくせば、アメリカと同様に日本は解雇自由の国になりかねない。
「解雇回避の努力義務」の変更目指す
ただし、小泉氏は記者会見で「解雇の自由化ではない」と言っている。ではどこを変えようとしているのか? 「今までの労働契約法の判例の中で4つの要件があって、それを満たされないと人員整理、これが認められにくいこの状況を変えていくこと、それが、私が考えていることです。 特にこの4つの要件の中の2つ目ですね、この人員整理をする際に解雇を回避することをしっかりその努力義務を履行したか、これが問われます」(出馬会見) これは「整理解雇の4要件」といわれるもので、 人員削減の必要性があるか 解雇回避の努力をしたか 人選の合理性はあるか 解雇手続きの妥当性はあるか ── この4つを指す。 条文にはないものの、判例法理として解雇が合理的かどうかを判断する際の目安として裁判所で使われているものだ。 小泉氏はこの「2」の解雇回避努力についてこう言及する。 「そこの部分が、今は希望退職者の募集とか配置転換等の努力を行うというふうにされていますが、私はこれにリスキリング、学び直し、再就職支援、こういったものを企業に義務づけることで大企業に限定し…(中略)…来年国会に法案を提出していきたい、そう思っています」