AI翻訳マンガ「言語の壁」取り払い世界へ 翻訳家からは雇用奪うと懸念も【WBSクロス】
今回のテーマは「AI翻訳マンガ」です。今月、政府は「クールジャパン戦略」を5年ぶりに改定しました。漫画やアニメなど日本のコンテンツを海外に売り込みたい考えですが、そこに立ちはだかっているのが「言語の壁」です。今その壁を、AIを使って取り払おうとする企業が現れ、注目を集めています。 アメリカ・ニューヨークにある紀伊國屋書店。日本の漫画およそ9000タイトルを取り扱っていて、連日多くの漫画ファンが訪れています。 「『HUNTER×HUNTER』『進撃の巨人』。良い作品が多すぎる。とても好き」(客) 「実家に漫画が300冊ある。グッズも飾っている」(別の客) 今年4月、全米の書籍売り上げランキングで、英語版の「呪術廻戦」が1位になるなど日本の漫画は大人気。最近ではこんな作品も。 女性同士の愛情を巡る漫画「気になってる人が男じゃなかった」。元々作者がSNS上で連載していたものが書籍化。Xのフォロワーは100万人を超え、海外にも多くのファンがいますが「この漫画をオンラインで読んだことがあるが、英語版がない」(客)。実はここに並べられているのは全て日本語版。人気が高いものの、英語版は出版されていません。 日本の漫画を海外展開する上で、高いハードルとなっている言語の壁。実際、日本の漫画で翻訳され、海外で出版されているのは全体のわずか2割というデータもあります。
AIを使った翻訳
今、そのハードルを低くしようとしている企業が東京にあります。スタートアップの「マントラ」。漫画の翻訳に特化したAIを開発しています。実際にどのような作業を行うのでしょうか? 「漫画の画像をアップロードした。5枚アップロードされている状態」(マントラの石渡祥之佑CEO) 今回翻訳する作品は、馬刺しが好物の女子高校生が偏食の男子高校生を救う物語。待つこと数分、短時間で英訳された漫画が出来上がりました。翻訳された文章はどうなっているのでしょうか。 「例えば『いや~傑作だったね!』という吹き出しは『WOW,IT WAS A MASTER PIECE』と訳してます。これはそのまま使っても問題ないという精度になっている」(マントラの関野遼平さん) マントラのシステムでは、吹き出しの中の日本語を自動的に削除し、英訳をはめ込みます。登場人物の性別なども認識し、吹き出しの読む順番も把握し翻訳しているといいます。 ただ漫画には独特な表現や世界観がつきもの。難しい表現はどうなのでしょうか。 「『おっさんくさい好物の馬刺しで大賞取るなんて』というところを、おっさんくさいをもっと強く出したい。『OLD-SCHOOL』が当てはまっていて、間違っているっていう感じではないが、AI翻訳だけだとニュアンスが伝えきれていない」(マントラの関野さん) こうした表現は海外にいる翻訳家がチェックし、修正を加えていくといいます。チェック作業を行っているアメリカ在住の翻訳家ジェームズ・ブラッグさんは「間違いなくAIは作業時間を短縮する。知らない漢字があれば(AI翻訳を)見ればわかる。30~50%ぐらい早くなっていると思う」と話します。 マントラエンジンは英語に加え、韓国語やスペイン語など合わせて18の言語に対応。大手出版社などから依頼を受け、月におよそ10万ページの漫画を翻訳していて今後、拡大を目指します。 「翻訳のスピードとコストの部分で、多くをさばけていないというのが現実としてあるとは思っている。そこを解決しないといけない」(マントラの石渡CEO)