【皇室コラム】鴨場のデート秘話――「一個人」として同行していた護衛官
天皇陛下が雅子さまにプロポーズをされた〝鴨場のデート〟に、「一個人」として同行していた皇宮護衛官がいました。宮内庁の幹部から「嫌ならいいのですが…」と“隠密作戦”を打ち明けられ、「構いません」と密かに同行していました。ご結婚30年を迎えた6月9日、テレビで当時の映像を見ながら、米寿を迎えるその人の気概を思いました。(日本テレビ客員解説員 井上茂男)
■前代未聞 「警備なし」の“隠密作戦”
1992(平成4)年10月3日、土曜日の昼前。宮内庁職員が運転するあずき色の軽ワゴン車が、東京・港区の赤坂御用地の巽門から静かに滑り出ました。運転する職員は、皇太子時代の陛下の身の回りのお世話をする「内舎人(うどねり)」。後部の窓は黒い目隠しフィルムで覆われ、後部座席には皇太子時代の陛下が布をかぶって潜まれていました。ワゴン車は首都高速に入って千葉県市川市にある宮内庁の新浜鴨場を目指します。有名な“鴨場のデート”です。 鴨場では外務省職員だった雅子さまが待っていました。そこは国内外の賓客を接遇する野鳥の生息地。お2人は、山下和夫東宮侍従長が用意した粽(ちまき)のすしを一緒にとり、広い池の周りを散策したり、輪投げをしたりして過ごしました。その場にいたのは元外務事務次官の柳谷謙介氏や山下侍従長らごく少数。木造の古い建物の中から見守っていました。 その先のことは、陛下が婚約会見で丁寧に話されています。「10月3日に千葉県の鴨場で、『私と結婚していただけますか』というようなことを申しました。その時の答えははっきりとしたものではなかったけれども、12月12日にこの仮御所に来ていただいて、そこで『私からの申し出、受けていただけますか』というふうに申しまして、それを受けていただいたというわけです」
このお出かけは、身内の皇宮警察にも警視庁や千葉県警にも内緒の〝隠密作戦〟でした。その日は、当時の天皇皇后両陛下が国体で山形県へ向かわれる日。皇太子妃取材が熱を帯びるなか、皇室記者たちの目が山形に向く隙をついて鴨場のデートは行われました。 “隠密作戦”のことは陛下自身が質問に答えて説明されています。 「以前全く警備なしで出掛けたという事は、これはございません。今回が全く初めてのことであります。ただ、私としましても、ことに雅子さんの場合、以前に非常にマスコミにも取り上げられて大変な思いをされたということもございますので、今回も会う場合には本当に極秘で、本当に知られないで会う方法というものをいろいろ考えたわけです。その結果としまして、最終的には警備を付けずに会うという、言ってみれば前代未聞のことだったかもしれませんけれども、(中略)私自身本当にこの度の雅子さんのことに関しては、本当に全力投球でと申しますか、一生かけて、本当に力を入れていたことでもありますし、警備なしという極めて無防備な状態ではあったわけですけれども、それをする価値は十分にあったという、このことに関してはそういうふうに思っています」(1993年2月の誕生日会見)