フェラーリのV12モデルはラグジュアリーに昇華する──新型12チリンドリ試乗記
フェラーリの新しいV12エンジン搭載モデル「12チリンドリ」に、大谷達也がルクセンブルクで試乗した。従来モデルとは立ち位置の異なる新型に迫る。 【写真を見る】新型12チリンドリの全貌(68枚)
“ラグジュアリーなハイパフォーマンスモデル”
ルクセンブルクで行われたフェラーリの新型12チリンドリ(イタリア語で「ドーディチ・チリンドリ」と発音)の国際試乗会に参加した。 「なぜフェラーリの試乗会がルクセンブルクで?」という疑問には後ほど記すとして、12チリンドリのポジションニングを、まずはそのスタイリングから解き明かしたい。 1968年にデビューした往年の名車「365GTB/4」をオマージュしたエクステリア・デザインは流れるような曲線美が実に魅力的。個人的には、今年4月にイタリア・マラネロで行われたスネーク・プレビューですでに目にしていたが、改めて眺めてみても、無駄のない洗練されたラインには時を越えた美しさがあるように思う。 それにしても、これまでV12エンジンをフロントミッドシップしたフェラーリのフラッグシップモデルといえば、先代の「812スーパーファスト」を筆頭として、エレガントなデザインのなかにもダイナミックさというかアグレッシブさが必ずといっていいくらい含まれていた。 しかし、12チリンドリにはそういったダイナミックさやアグレッシブさがほとんど見当たらない。なぜだろうか? フェラーリ・スポーツカーのエクステリア・デザインを統括するアンドレア・ミリッテロは、以下のように語っている。 「現在、われわれのラインナップには超高性能車(「SF90」を指す)があるため、このモデル(12チリンドリ)がパフォーマンスの究極を表現するモデルである必要はありませんでした。そのため新しいデザイン言語を定義するのと、モデルポジショニングを適切に配置する必要がありました」 先代の812スーパーファストまでは、“V12エンジン搭載のスーパースポーツモデル=フェラーリで最高のパフォーマンスを発揮するモデル”という公式が成立していた。しかし、V8ツインターボエンジンにプラグイン・ハイブリッド・システムを組み合わせたSF90がV12モデルに代わってトップパフォーマーの座を手に入れたことで、V12モデルはパフォーマンスの高さを前面に打ち出す必要がなくなったというわけだ。つまり、「トップパフォーマー=SF90」という公式ができあがったいま、V12モデルはスポーツ性を強調する義務から解放され、フェラーリのプレステージ性を体現するフラッグシップモデルに専念することが可能になったのである。 もちろん、だからといって12チリンドリがスポーツ性を蔑ろにしたわけではなく、フェラーリのフラッグシップに相応しいパフォーマンスが与えられているのは事実。それでもパフォーマンスとプレステージ性の関係でいえば、12チリンドリは812スーパーファストよりもプレステージ性重視のポジションに移行することが可能になり、その結果として、“ラグジュアリーなハイパフォーマンスモデル”を体現するエクステリア・デザインが与えられたのである。