「103万円の壁」引き上げでも手取りは増えない? 財務省は「ステルス増税」を目論む予感…
そもそも政府試算の7.6兆円の税収減の議論には、減税による経済効果が勘案されていない。 「今年6月から岸田前政権による3.3兆円規模の定額減税が始まりましたが、24年度の税収は前年度比横ばいの約70兆円を見込んでいます。その背景にあるのは、企業業績の回復に伴う法人税収の拡大と消費税収の増加。つまり、減税策を打ってもその波及効果が見込める。この単発の岸田定額減税に関する民間エコノミストの試算では経済効果は5000億円程度と小さなものでしたが、控除枠拡大による恒久減税ならば、より消費拡大に結びつきやすい。消費税収や法人税収の増加に寄与するでしょう」(永田町関係者) 7.6兆円の減税がどれだけの効果を生むのか数字に表すのは難しいが、単純に7.6兆円の税収が消えるわけではないのだ。 ■あらゆるパート従業員に ただし、国民民主党案が実現したとしても、ほかの壁は残る。社会保険料負担が発生する「106万円の壁」および「130万円の壁」だ。 年収がこれらの壁を超えると社会保険上の扶養から外れるため、厚生年金保険料や国民健康保険料の支払いが生じる。この106万円の壁は事業所規模が従業員51人以上の勤務先である場合に生じ、130万円の壁は事業所規模などに関係なく社会保険料がかかる所得基準の壁だ。 仮に従業員51人以上の会社に勤めて月に9万円の収入(年収108万円)を得た場合には、年金・健康保険を合わせて約15万円の負担が発生する。108万円稼いでも、手取りは93万円に減ってしまう。 この社会保険料の負担は今後のあらゆるパート従業員に重くのしかかってくる可能性がある。
「106万円の壁は、最初は従業員数501人以上の事業所に勤務する人が対象でしたが、101人以上になり、24年10月から従業員51人以上に引き下げられ、さらに厚生労働省は壁そのものをなくすことを検討しています。つまり、パートなどで働くすべての人に社会保険料を課そうとしている。厚生労働省はその分、将来受け取れる年金が増え、医療保険の保障が手厚くなるなどのメリットがあると主張していますが、目先の手取り収入が減って困窮する家庭が増えかねない」(前出の荻原氏) ■ずっと廃止を検討 加えて、基礎および給与所得控除以外の控除枠は縮小ないし、廃止される可能性があることに注意が必要だという。 「24年度税制大綱では16~18歳の子どもがいる家庭に適用される扶養控除が縮小され、所得税控除額の38万円が25万円に、住民税控除額の33万円が12万円にそれぞれ引き下げられ、実質的な増税が進みます。さらに配偶者控除(最大48万円)と配偶者特別控除(最大38万円)に関しても、『働く女性の意欲をそぐ』という理由でずっと廃止が検討されています。こうした控除枠の縮小の代わりに、政府は『手当てを出すから手取りは変わらない』といいますが、控除と異なり、手当てはいつでも縮小できるもの。実際、過去には児童手当の削減も検討されました。今回、国民民主党案が採用されたとしても、財務省はほかの控除枠や手当ての削減を通じて税収減をカバーしようとするのは間違いありません」(同) 減税が実現しても……水面下で進む「ステルス増税」に要注意! (ジャーナリスト・田茂井治)
田茂井治