『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』21世紀に受け継がれた強力な『猿の惑星』サーガ第1弾
怒れるシーザーついに言葉を発する!
本作には、旧『猿の惑星』へのオマージュが多く見受けられる。たとえば、施設で虐待されるシーザーはランドンによって檻の中で、ホースで水をかけられるが、これは1作目でチャールトン・ヘストンふんする主人公が同じ目に遭う場面への返歌。また、シーザーが施設で知り合うサーカスのオランウータン、モーリスの名は、1作目でオランウータンの博士を演じた俳優モーリス・エヴァンスに由来する。 シーザーはこの後、施設で出会ったサルたちをまとめ上げ、リーダーとなっていく。ランドンのひどい仕打ちにより、人間への憎悪が高まってしまった彼には、もはやウィルの声が届くことはなかった。やがて彼はスタンガンを振るうランドンに対して、はっきりと声を上げるーー“No!”。これがリブート版『猿の惑星』ユニバースにおいて、サルが初めて発した言葉。『猿の惑星・征服』にもシーザーというサルが同様の抵抗を示す場面があるが、これまた旧作へのオマージュだ。 ともかく、虐げられた者の怒りが爆発するこの場面はある意味、本作最大の山場。『猿の惑星』シリーズは以前から、マイノリティに対する差別を浮き彫りにした作品として語られることが多かったが、本作もそんな寓意を受け継いでおり、反動物虐待の直接的なメッセージに加えて、被差別者の自由の希求も見えてくる。もちろん、多くの観客はこの時点で人間ではなく、シーザーに感情移入することになる。 物語はこの後、シーザーに率いられたサルたちが街に飛び出し、サンフランシスコをパニックに陥れるクライマックスへと突入。ゴールデンゲートブリッジで警官隊と対峙する場面まで、緊張感に満ちた見せ場が続く。この場面でシーザーは人間に対する殺生をサルたちに禁じるが、これはウィルとの生活で培われた人間的な感情の表われだろう。
類人猿に命を吹き込んだ名優とVFX
サルの感情表現という点で、大きな効果を発揮しているのがモーションキャプチャー。これは簡単に説明すると、俳優の演技をデータ化してCGに取り込む方式で、特殊メイクや着ぐるみでサルを作り上げてきた従来の『猿の惑星』とは異なる手法。俳優の動作はもちろん、表情の微妙な変化まで、デジタル上のサルのビジュアルに反映することができる。VFXを担当したWETAデジタルのスタッフは動物園のサルを熱心に観察し、CG化の参考にしたという。 シーザーにふんしたアンディ・サーキスは映画ファンに広く知られているとおり、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでゴラムを演じて以来、モーションキャプチャー演技の分野をリードしている第一人者。ピーター・ジャクソン監督の『キング・コング』(05)に続いて類人猿を演じた本作では、シーザーに細やかな表情をあたえている。ブルーレイの特典の中には、実写のサーキスの演技と映画のシーンを比較した映像も含まれているが、これを見ると彼の貢献の大きさがよくわかるので、ぜひチェックしてみて欲しい。 監督のルパート・ワイアットは英国出身で、本作が初のハリウッド大作の演出となったが、『猿の惑星』シリーズのスピリット、すなわち人間の傲慢さに対する批判精神をもって物語を演出。科学への過信や行き過ぎた営利主義に警鐘を鳴らす。本作が見応えのあるドラマとなったのは、そんなワイアットの硬派なドラマ作りの手腕に依るところも大きい。 本作は興行的にも批評的にも成功を収め、以後、続編の『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(14)、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(17)でシーザーの物語をさらに深めていく。注目の新作『猿の惑星/キングダム』は、それから数百年後の物語で、リブート版シリーズの新章ではあるが、シーザーの遺産が受け継がれており、またドラマとしても硬派な魅力が宿る。21世紀に受け継がれた強力な『猿の惑星』サーガを楽しんでいただきたい。 文:相馬学 情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。 (c)Photofest / Getty Images
相馬学