牛車に積んだ草の上で揺られて、うとうと……「今はありえない」遊牧民の秋
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。同じモンゴル民族のモンゴル国は独立国家ですが、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれています。近年目覚しい経済発展を遂げた一方で、遊牧民の生活や独自の文化、風土が失われてきました。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録するためシャッターを切り続けています。アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。
定住化と草原の私有化によって、毎年、多量の乾燥草の備蓄が必要になった。草は遊牧民にとっては命以上の存在である。 8月中旬から草が枯れ始める。この時に草刈りが始まる。完全に枯れて、折れてしまう前に草を刈ることで、草の栄養が残され、緑のままに備蓄ができる。 私が子供の時はいくつかの家族が一緒に草刈りを行っていた。当時、2メートル以上長い柄がついた大きな鎌を使う手作業で行われ、牛車や馬車で運んでいた。 小学校に入る前、母について、草刈りに行き、牛車に草を乗せた後、草の上にくぼみを作って、その中に乗せてもらった。その牛は家まで迷わずに行ってくれる。ゆったり、リズムよく揺れる牛車の上で、私は寝てしまった。気づいたら、誰か大人に起こされるのである。 その時は鉄条網もなく、作業用の機械もほとんどなかった。田舎の学校は草刈りのための休みがあり、子供たちが家に戻り、草刈りの手伝いをすることもあった。今ではありえない話になった。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第5回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。