EUは存続の危機、巨額投資と共同債が必要-ドラギ前ECB総裁
ドラギ氏に報告書の提出を求めたフォンデアライエン欧州委員長は、同氏の提言をどこまで取り入れるかを決定しなければならない。
欧州の指導者たちは、主要ライバルに対する競争力の低下をますます痛感しつつある。競争力低下は、エネルギーの域外依存と原材料の不足が一因だ。電気通信産業や防衛産業がスケールメリットを生かせず、安全保障で機敏な態勢が十分にとれていないことも障害となっている。
EUは温暖化ガス排出削減や次世代技術創出の野心的な目標を掲げている。だが、技術開発促進に必要な多額の資金を域内間で融通できるようにする資本市場障壁の引き下げは、今のところ前進できていない。
民間部門にとっての朗報は、ドラギ氏が通信業界の統合が必要だと指摘したことだ。「コネクティビティーへの高い投資率を実現するために」必要だとドラギ氏は論じた。
ドラギ氏は報告書で、EUの経済成長が過去20年にわたり米国を下回り続けていると指摘、生産性の伸びが比較的小さいからだと論じた。高いエネルギー費用と中国に対する競争力喪失に苦しみ続けているドイツの産業界は、とりわけ弱さが際立つようになった。ドイツの国内総生産(GDP)は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前から、ほぼ伸びていない。
欧州の生産性の低迷は、政治的分断による域内経済大国政府の弱体化と、ドラギ氏が求める共同債発行などの野心的な解決策に反対するポピュリスト勢力の台頭によって、悪化している。
グリーン転換に向けた米国の金融優遇策や、多額の補助金が投じられている中国の積極的な産業計画に対して、欧州の対策は鈍く、すでにいくつかの主要産業でそのしわ寄せが生じている。
フォルクスワーゲンは87年の歴史で初めてドイツ国内の工場閉鎖を検討していると発表した。
ナティクシスのエコノミスト、アリシア・ガルシアエレロ氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「欧州は守りが解決策にはならず、一時的しのぎにしかならないことを理解する必要がある」と発言。「攻勢に出なければならない。より良い条件で競争すること、つまり、より多くのイノベーションが必要だ。単一市場を強化しなければならない」と語った。