俳人・黛まどかさんに聞く デビュー句集 「B面の夏」刊行30年 命の輝き知り、詠む 常に新しさ追い求めたい
俳人の黛まどかさん(61)のデビュー句集「B面の夏」(角川文庫)が今年、刊行から30年を迎え、記念して復刊が出版された。カタカナ言葉を多様し、若い女性たちの日常の感覚を詠んだ俳句は話題になり、今なお若者たちの心に共感を与えている。黛さんに俳句への思いや今後の展望などを聞いた。 ―「B面の夏」が発刊30年を迎える。 空が白い。海が青い。当時は若く、すべてがまぶしく思えた。歳を重ねると出会いや別れ、自分の病気など辛いことが増える。同じ夕日を見ても、心のひだが増えてその奥に見えるものや感じるものが深くなった。経験も感情もどこかで俳句につながり、私の人生を豊かにしてくれている。辛さも、やがては俳句に帰結し、昇華する。実にありがたい表現形式だと思う。 ―特に印象深い作品は。 飛ぶ夢を見たくて夜の金魚たち 夜中、ふと目が覚めると薄明かりの中、金魚鉢が目に入った。じっと動かない金魚を見て、寝ているのかな。夢を見ているのかな。この空間から飛び出したいと思うのかなと思いを巡らせた。都会の夜、コンビニの前で何をするわけでもなく時間をつぶす若者たちの姿が浮かんだ。彼らも今の状況から飛び出して、飛躍したいと思っているのかな。真夜中の金魚と夜をさまよう彼らが重なり、詠んだ。
―斬新さが注目された。 都会でキャリアを積む若い女性たちが俳句に魅了されるきっかけになったと思う。一方で俳句の基本型は厳守しても恋や都会の風景を詠んだ句は伝統俳句には馴染まないとして、長く俳句界で活躍してきた方々はまゆをひそめたかもしれない。私自身、俳句の本質を学んだ上で新しい俳句を目指す「不易流行」の考えを大切にしている。何百年という時を経て、先人たちが残してきた伝統を尊重している。耕してきた土の上にこそ、新しい花が咲く。常に新しさは追い求めたい気持ちは何歳になっても変わらない。 ―魅力について。 俳句は17音なので文字に全て書ききれない。「B面の夏」の金魚の句も、実は都会の夜を過ごす若者たちの姿も詠んでいるように、言葉以外で本当の作者の言いたいこと、感動を漂わせる。余白に込められた言葉、その言葉の背後や裏側、奥にある見えない意味をどれだけ読み解けるか。俳句には作者の思いを読み解いていく楽しさがある。