全国初摘発の「電動スーツケース」より要注意…LUUPの座席付き「電動シートボード」に恐怖を感じる理由
■歩道も車道もデタラメに走る、という未来 LUUP社によると、今冬のリリースを目指しているのだそうだ。 思えば、これ、リリースされないわけがなかった。一般への市販としては「完全合法!」「車道も歩道もスイスイ!」とか言って、すでにネットで売られているのだから。 ならばとばかり、今後はシェアモビリティとして大量にばらまかれるわけだ。それが数カ月先の未来。 だが、こんなものが、普通の顔をして大量に出回ることに危惧はないのか。私は危惧する。実に危険、かつ迷惑だ、と。 私が予想するのは、今後、無免許、ヘルメットもかぶらず、交通法規も知らない連中が、歩道も車道も右も左もデタラメに走る、という未来図だ。 どうしてそれが予想できるかって? 簡単。電動キックがすでにそうなりつつあるからだ。 ■ヘルメットをかぶったLUUP乗りはほぼ皆無 たとえば、LUUP社の公式ウェブサイトやプレスリリースに掲載されている写真は、すべての電動キックがヘルメットをかぶっている。 しかし、実際にヘルメットをかぶって電動キックに乗る人を見たことがあるだろうか。ないよ。私だって、ヘルメット電動キック乗りなんて、私以外に見たことがない。 だって、LUUPにヘルメットは付いてないし、ポートにもないし、ヘルメットを持ち歩いて電動キックに乗る人なんてほぼいないから。
■「合法」として公道を走行できる 今、首都圏、近畿圏などでは、いわゆる「違法モペッド」が電ジャラス自転車として、オラオラとばかり事故を起こし、迷惑をかけ続けているというのはご存じの通り。 しかし、あれらはいざとなれば検挙できるのだ。そもそも、ナンバープレートなしで公道を走ること自体が違法・脱法なんだから。これは冒頭に紹介した電動スーツケースも一緒だ。 だが、今回の電動シートボードはどうか。 「合法」なのである。 特定小型原付のナンバーを付けている限り、存在自体を否定されたりはしない。 スロットルを回したって合法。無免許でも合法。ヘルメットをかぶらなくても罰則なし。 私は現場の警察官が気の毒でならない。こんなのが危険運転をバンバンしていても、実質的に捕まえられないし、特定小型原付のナンバーは小さくて、数字がそもそも見えない。 ■LUUP社の罰則制度は効果があるか LUUP社も悪質な乗り手に苦慮しているのか、違法走行に対して罰則を課す新制度を導入すると発表した。違反点数が加算されていくと、アカウントを30日間凍結し、さらにその後1年以内に違法走行をしたら無期限でLUUPに乗れなくするそうだ。この取り組みがどこまで効くのかはまだわからない。 そんな状態の中での見切り発車だ。すでに増えている電動がらみの事故は、一気に爆増するだろう。今目の前で起きていることは「人の命を代償とした社会実験」なのだ。 第一、違法モペッド乗りにこう言われたらどうするんだ。 「なんだよー、オレたちばっか捕まって、なんであの連中(電動シートボード)は捕まんねえんだよ。あいつらも無免許だし、ペダルすらねえじゃん、しかも加速ヤバいんだぜ。あっちの方が全然あぶねーよ」 ---------- 疋田 智(ひきた・さとし) 自転車評論家 1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。 ----------
自転車評論家 疋田 智