『エイリアン』シリーズの醍醐味は“衝撃”と“慄き” 新作『ロムルス』を機に過去作を振り返る
デヴィッド・フィンチャーのデビュー作『エイリアン3』今なお一見の価値あり
人気を決定付けた『エイリアン2』から6年をかけ、1992年に『エイリアン3』が公開される。監督は本作が長編映画デビューとなったデヴィッド・フィンチャー。巻頭早々、前作で好評を博した人気キャラクターたちを退場させ、キャメロンの作った戦争映画のトーンから再び密室ホラーへと転換。暗く陰鬱な世界観は不評を買い、後年にはニール・ブロムカンプが『エイリアン2』の正統続編をリブートする報も飛び交った。フィンチャーは自身のビジョンを実現するため毎日のようにスタジオ側と衝突し、憔悴。以後、監督第2作『セブン』まで3年を要することとなる。彼が今なお本作を忌み嫌っていることは、2023年作『ザ・キラー』に主人公の“仕事”を解せぬ投資家を登場させたことからも伺える。2004年には約30分の未公開シーンを収めた『完全版』がリリース。ディレクターズカットではないものの、劇場版では省略された人物や世界観の描写に時間が割かれ、宗教的モチーフとSFホラーの組み合わせはシリーズを追い続けてきた者にこそ満足感がある。アメリカ映画界を代表する巨匠となったフィンチャーのデビュー作は、今なお一見の価値ありだ。 SFホラーというジャンルやクリーチャーデザインだけではなく、リプリーの受難と戦いこそがシリーズの骨子であったことは今振り返ることでよくわかる。1997年には『エイリアン3』の200年後を舞台にした続編『エイリアン4』が公開。遺されたリプリーの血液から軍がエイリアンを再生し、生物兵器に転用しようと目論む。監督はフランス人のジャン=ピエール・ジュネ。ファンタジックでビザールな悪夢的SF映画『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』のヒットで白羽の矢が立った格好だが、ジュネが後にラブコメディ映画『アメリ』で世界的なヒットを飛ばしたことを思うと、要求されていたのはたった4日で現場を離脱したという共同監督マルク・キャロのテイストだったのではと推測される。撮影監督は後にフィンチャーはじめ名だたる名匠の作品を手掛けていくダリウス・コンジ。全編、セピアがかった仄暗さとシリーズ随一のグロテスクな美意識に彩られた異色作である。シガーニー・ウィーバーはエイリアンと人間のDNAが混ざったクローン・リプリーを超越的に演じ、当時人気絶頂期だったウィノナ・ライダーとの間には耽美的な妖しさも漂っていた。 地球に降り立ったクローン・リプリーは「これからどうなるの?」という問に「わからない。私にも初めての星よ」と答える。第1作目から18年、リプリーの物語は全く異なるペルソナの帰還で終焉を迎え、シリーズは行き先を見失っていく。2004年には20世紀フォックスの人気キャラクターの1つ、プレデターとエイリアンが戦う企画モノ『エイリアンVS.プレデター』が公開。今日で言うところの“ユニバース”が形成されるが、まるで宇宙サムライのようなプレデターを前に終始やられ役に徹したエイリアンからは、本来の神秘的なまでの邪悪さが失われてしまっていた。 これに業を煮やしたリドリー・スコットはシリーズ第1作に登場した宇宙人の正体と、エイリアン誕生のルーツに迫る『プロメテウス』を製作する。しかし、人類の起源にまで至るデイモン・リンデロフの壮大な脚本は2時間の劇映画には過積載で、オリジンの輝きを取り戻すには至らなかった。筆者は劇場公開当時、大作監督スコットのIMAX絵巻に魅せられたものの、スマートフォンやパソコンのモニターで視聴する現在の観客には物足りなく映るかも知れない。スコットはさらに2017年に続編『エイリアン:コヴェナント』を発表。自身のもう1つの代表作『ブレードランナー』にも緩やかに交錯しながら、創造者と創造物の関係を描く哲学的な主題は『エイリアン』シリーズから遠ざかり始める。とはいえ、歳を重ね厭世と死の匂いが濃くなり始めた老匠のフィルモグラフィから見れば、禍々しいまでの邪悪なムードを湛えた本作には気圧されてしまうものがあった。スコットは3部作を構想していたようだが、20世紀フォックスがディズニーに買収されたことで企画は消滅する。 そんな45年間の紆余曲折を経た『エイリアン:ロムルス』の大ヒットを受け、さっそく続編の噂が飛び交っている。アルバレスはオリジナルシリーズに則り、拙速な製作を避け、十分な企画開発を行う意向のようだ。一方でディズニーはフランチャイズの拡大に余念がなく、2025年にはテレビシリーズ『エイリアン:アース』がディズニープラスで配信される。物語は『プロメテウス』からさらに時代を遡り、シリーズ初の地球を舞台に展開するという。ショーランナーを務めるのはノア・ホーリー。テレビシリーズ版『ファーゴ』やマーベル原作ドラマ『レギオン』を手掛けてきた奇才だけに、相当捻った作品になるのは間違いない。シリーズの伝統に倣えば『エイリアン:ロムルス』とは全く異なるトーンで観客をギョッとさせることも大いにあり得る。衝撃と慄きは『エイリアン』シリーズの醍醐味である。今こそ異形のシリーズをぜひとも楽しんでもらいたい。
長内那由多(Nayuta Osanai)