名優・浅野忠信、51歳の誕生日「SHOGUN 将軍」では敵か味方か分からぬ立ち回りで暗躍する“憎めないキャラ”好演
米・テレビ界のアカデミー賞ともいわれる「第78回エミー賞」で最多18部門を受賞したドラマ「SHOGUN 将軍」に樫木藪重役で出演し、その演技で国内外の視聴者を魅了した俳優・浅野忠信が、11月27日に51歳の誕生日を迎えた。2024年は「SHOGUN 将軍」だけでなく、8月に公開された安部公房原作の映画「箱男」での“ニセ医者”役も印象的だった名優・浅野のこれまでのキャリアを振り返る。 【写真】「SHOGUN 将軍」ではいきなり崖の下に落ちそうになるという衝撃シーンも ■名作ドラマ「3年B組金八先生」シリーズでデビュー 1973年11月27日生まれ、神奈川・横浜市出身の浅野は、小学生の頃から空手を習い、中学からは音楽に興味を持つようになったという。1988年、中学3年生の時にドラマ「3年B組金八先生」(TBS系)の第3シリーズのオーディションを受け、本名の“佐藤忠信”名義で出演したのが俳優としてのキャリアのスタート。その後、映画「バタアシ金魚」(1990年)から本格的に俳優としての道を歩み始めた。 同作は望月峯太郎の人気コミックを松岡錠司監督が筒井道隆主演で映画化し、ヒロインを高岡早紀が演じた。浅野は主人公・カオル(筒井)のライバル的存在のウシ役で出演。1991年には岡本健一、石田ひかりと共演した「あいつ」、1992年には林泰文主演の「青春デンデケデケデケ」、そして1993年には作家・大沢在昌の人気シリーズ“新宿鮫”を映画化した「眠らない街 新宿鮫」に砂上役で出演しているが、この作品の主人公・鮫島を演じたのが「SHOGUN 将軍」で主演を務めた真田広之だった。 1996年公開の岩井俊二監督による短編映画「PiCNiC」ではCHARAと共に主演を務め、同じく岩井監督作で同年公開されたCHARA、三上博史、伊藤歩トリプル主演の「スワロウテイル」にも出演した。 1996年、青山真治監督の「Helpless」で長編初主演を務めているが、この90年代半ばから、個性的な映画に多く出演するようになり、「[Focus]」での盗聴マニアの金村役、小嶺麗奈とのW主演作「ユメノ銀河」でのミステリアスな新高役、庵野秀明監督の「ラブ&ポップ」での主人公の援助交際の相手“キャプテンEO”、つげ義春の名作「ねじ式」の実写映画での売れない貸本漫画家のツベ、「鮫肌男と桃尻娘」の鮫肌黒男、坂口安吾の小説を原作にSF要素を盛り込んだ「白痴」での伊沢など、一度でも作品を見ていれば、思い出せる個性的なキャラを多く演じた。 1999年に公開された「地雷を踏んだらサヨウナラ」は、26歳の若さでこの世を去ったフリーランスの戦場カメラマン・一ノ瀬泰造氏の生き様を描いた作品で、浅野は主演を務めた。この作品で浅野は奇を衒う感じではなく、自然と一ノ瀬氏として生き、人間味あふれる姿が印象的だった。本作などの好演で2000年の「第55回毎日映画コンクール」男優主演賞を受賞している。 大島渚監督の「御法度」(1999年)、石井聰亙監督の「五条霊戦記 GOJOE」(2000年)、「ELECTRIC DRAGON 80000V」(2001年)など、主演や主要な役どころを演じる作品が増え、2001年の「殺し屋1」で主演し、“垣原”役がまさに当たり役となった。見た目のインパクトもそうだが、やはりあの演技は今見ても強烈だ。 ■ハリウッドデビュー…積極的に海外作品へ 2004年に「トーリ」で初監督を務め、「R246 STORY『224466』」(2008年)でも主演と監督を担当。役者としては「誰がために」「東京ゾンビ」「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」「サッド・ヴァケイション」「鈍獣」「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」など、多くの作品で印象的な役柄を演じている。 大きな転機となったのは2011年公開の「マイティ・ソー」。マーベルの人気作品で“ホーガン”を演じたが、これがハリウッドデビューとなった。その後、「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」「マイティ・ソー バトルロイヤル」にも出演している。「マイティ・ソー」の時、ハリウッドでは浅野のことはまだよく知られていなかったが、「殺し屋1」(Ichi the killer)の“Kakihara”だと分かった途端に、共演者からの見る目が変わったというエピソードがある。「バトルシップ」「47RONIN」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海」「沈黙 -サイレンス-」「ミッドウェイ」「モータルコンバット」「MINAMATA-ミナマタ-」など、「マイティ・ソー」をきっかけに海外作品への出演も急増した。 そして2024年はドラマ「SHOGUN 将軍」でも、海外の視聴者の心をがっちりとつかんだ。「トップガン マーヴェリック」の原案者・ジャスティン・マークス氏が製作総指揮を担当し、真田が主演のみならずプロデュースも手掛けた本作。ハリウッド製作でありながら、真田がこだわった「本当の日本を見せること」を実現させ、時代考証、所作はもちろん、セリフのほとんどを日本語にするなど、作り手の意思を感じさせる作品となった。浅野が演じた“樫木藪重”は、吉井虎永(真田)と、虎永と敵対する石堂和成(平岳大)側との間で揺れ動く人物で、どちらにもいい顔をしようとする調子の良さを見せながらも、腹の中では何を考えているのか分からない不気味さも持ち合わせている。 その藪重の言動は国内の視聴者だけでなく、海外の視聴者にも奇異に映り、なぜか憎めないキャラとして人気が高い。配信されるごとにSNSには海外ファンから“Yabushige”の名前が多く見られたほどに。エミー賞での個人賞は残念ながら獲得ならずということになったが、主演男優賞の真田、主演女優賞のアンナ・サワイに匹敵するほどの演技とインパクトを与えたことは間違いない。 先日劇場でも第1、2話が期間限定公開され「迫力がすごい!」と注目された「SHOGUN 将軍」はディズニープラスのスターで全話独占配信中。後半まで続く浅野“藪重”の暗躍を楽しむことができる。 ◆文=田中隆信