てんかん発作の「交通事故」後絶たず! 過去には児童6人死亡の大事故、個人モラルに依存した制度設計はもはや限界だ
鹿沼市の悲劇と遺族の声
てんかん、認知症、精神疾患など「一定の病気」がクローズアップされたのは、2011(平成23)年、栃木県の中部に位置する鹿沼市の小学生6人がクレーン車による事故で死亡した事件がきっかけだった。 クレーン車のドライバーはてんかんを患っており、事故当時、発作を抑える薬を飲み忘れていた。ドライバーは何度も事故を起こしているにもかかわらず虚偽の返答を繰り返し、「運転をやめるよう」という医師の忠告にもかかわらず、運転を続けていた。裁判では有罪となったが、「運転に支障がある状態での運転」を厳しく罰する法律がないため、懲役7年の判決を受けた。 遺族や国民はこれを認めず、約20万人の署名で法改正を訴えた。その結果、この事件を契機に次のような措置がとられた。 ・一定の病気による危険運転の厳罰化 ・質問票制度と虚偽記載の法整備 ・医師による“任意”の届け出制度 こうした状況を踏まえて、てんかん、脳卒中、精神疾患や認知症など、運転に支障をきたす「一定の病気」に対する措置がとられた。しかし、冒頭のケースは「同質の交通事故」であり、制度の問題点を再考する必要がある。
虚偽記載の罰則と制度の限界
そもそも、質問票に虚偽の記載があったかどうかを確認する方法がない。仮に虚偽の記載があったとしても 「1か月以下の懲役、または30万円以下の罰金」 で済んでしまう。現行の制度では、患者の危険運転を止めることには限界があるのだ。 実際、死亡事故後、遺族が警察庁に質問票による申告者数の調査を依頼した。当時の患者総数の3分の1を成人と仮定し、免許更新の頻度を考慮すると、自己申告率は「3%」と推定される。遺族は次のように述べている。 「私達は、てんかん患者の方が、運転してはいけないとは思っていません。運転ができないようにするつもりもありません。ルールを守り、きちんと申告して運転して欲しいと思っています」 「自己申告は、もはや限界です。一日も早く、不正取得ができない免許制度を構築し、不正取得者による事故を無くすことこそが、まじめにてんかんと向き合って、一生懸命生きていらっしゃる患者さんへの偏見をなくす事につながっていくのではないのでしょうか」 そして、「運転しないようにいいました」と述べた医師に対しては、 「あの医師は、結果として、加害者の命も、被害者の命も救っていません。命を救う事を生業としている医師が、本当にとるべき行動とは何だったのでしょうか……「私は言いました……」記者会見で必死に訴えるあの医師の姿は、我々の目には、ただただ空しく見えました……」 医師による届け出制度は守秘義務の範囲外とされ、口頭、書面、電話で行うことができる。つまり、遺族が訴えているのは、自己申告制と任意の届け出制度に関する問題なのである。制度設計に何が必要なのか、冒頭のケースを見直してみよう。