「次世代」パワー半導体、日本勢の勝ち筋は 設備増強、再編機運も
電力の変換や制御をつかさどるパワー半導体。日本勢が強みを持つとされる製品だが、その国内メーカーで合従連衡の機運がにわかに高まっている。脱炭素の流れを受けて需要増が見込まれる「次世代品」への投資増や規模に勝る海外勢の存在が背景にある。 【写真】パワー半導体の世界シェア ■三菱電機は工場建設前倒し パワー半導体で国内首位の三菱電機は、熊本県菊池市で、1千億円を投じて次世代パワー半導体の工場建設を進めている。 ここでつくるのは、従来のケイ素(Si)製ではなく、耐圧・耐熱性に優れて電力ロスの少ない炭化ケイ素(SiC)を用いたパワー半導体のチップ。新工場では半導体の土台となるウェハー(円形の基板)の直径を従来の6インチ(約15センチ)から8インチ(約20センチ)に広げる。1枚のウェハーから作れるチップの数が増えるほどに生産効率が高まるためだ。 今後の需要増に備え、着工を当初計画より5カ月前倒しし、2025年11月の稼働を目指す。この工場でつくったチップは、福岡市の研究開発拠点で今月1日に着工した新工場棟に運ばれ、複数のチップを組み合わせて製品化される。 経済産業省は、パワー半導体の市場は30年までに今の約4倍にあたる約3.4兆円規模になると試算する。さらに民間調査会社の矢野経済研究所は、バッテリー容量の大きい電気自動車(EV)向けとして、30年のパワー半導体の出荷額のうち、炭化ケイ素製が17.4%を占めると予測する。このため、次世代品の設備増強の動きが相次いでいる。 富士電機は今年度、新たに青森県の工場で次世代品の量産を始めた。26年度には22年度比で生産能力を50倍に引き上げる方針だ。三菱電機と同じく、8インチのウェハーに対応する技術開発も進めている。コストや技術面で量産が難しいとされてきた窒化ガリウム(GaN)を用いた、別の次世代パワー半導体の生産には、東芝が乗り出している。このほか、酸化ガリウムやダイヤモンドといった新素材の研究開発も少しずつ始まっている。
朝日新聞社