【イベントレポート】黒沢清が「Cloud」主演・菅田将暉を絶賛、高度な演技力に「彼以外にない!」
映画「Cloud クラウド」のワールドプレミア上映が日本時間の本日8月31日に第81回ヴェネツィア国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門で行われ、監督・脚本を担った黒沢清が出席した。 【動画】映画「Cloud クラウド」予告編(他14件) 本作は転売で日銭を稼ぐ吉井良介を主人公に、現代社会に潜む憎悪の連鎖が“集団狂気”へとエスカレートしていくさまを描いたサスペンススリラー。菅田将暉が吉井役で主演を務めた。 今年はイタリア現地時間8月28日から9月7日まで開催されるヴェネツィア国際映画祭。プレミア上映に先駆けて行われた記者会見には、黒沢とプロデューサーの荒川優美が出席した。「Cloud クラウド」が第97回アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作に選ばれたことに触れ、黒沢は「本当に純粋な娯楽映画を作ろうというところからスタートした作品です。今回のヴェネツィア国際映画祭への出品も含め大きな名誉みたいなものと縁があるとは思っていなかったので、もう大変驚いています」と話し、「この作品がアカデミー賞にノミネートされるようなことがもしあれば、主演の菅田将暉さんが、アメリカで大いに知られることになるだろうと想像するとうれしいです」と語った。 また黒沢は菅田を「その世代で人気・実力ともに圧倒的ナンバーワンの俳優」と評し、「彼はあらゆる役を演じ分けることができる人です」と紹介。そして「映画の主人公は、わかりやすく特徴的なキャラクターがあったり、喜怒哀楽をはっきり表したりするほうが特にこういったジャンル映画の場合は都合がいいのですが、今回は普通の人でいきたい。それが僕の希望で、チャレンジでした」と述べ、「いい人か悪い人か、普通の人間が持ち合わせてる濁った曖昧な感じ。菅田将暉の非常に高度な演技力があれば、曖昧さが曖昧さとしてそのまま観客に伝わるんじゃないかなと思い、彼以外にない!と考えていました。見事にそれに応えてくれたと思います」とたたえた。 知り合いに転売をやっている男がいたことをきっかけに、主人公を転売ヤーにしたという黒沢。「彼は別に悪いことをしているというわけではなくて、ただ大きな組織の中で働くということが苦手。取り立てた何か才能があるわけではなく、もちろんお金があるわけでもない」と説明し、「資本主義の冷たい現実があって、いかにもそのような現代を象徴する仕事だと思い、主人公を転売屋という設定にしました」と明かした。 インターネットを題材にした黒沢の監督作「回路」と絡め、「Cloud クラウド」の成り立ちについて質問が飛ぶと、黒沢は「当時は、インターネットというものがまだ不気味でその中に何か邪悪なものが潜んでいるのではないかというフィクションが、妄想の中で成立した時代でした。それから20数年経った今、インターネットはごく当たり前の誰でも使う普通のツールになっていると思います」と言及。「ただ、当時はひょっとすると未来は美しい平和な世界なのかもしれないと思えていたものが、今や先が見通せない。貧しい人もお金持ちの人も、歳をとった人も若い人も、すべての人の間に何かが積もっていってるような気がします。その人間の心の中にある欲求不満あるいは歪みのようなものが、インターネットを通して異常に増幅され、集結してしまう。そういう現象は20数年前は考えられなかった。人間の心の中こそが今、やはり問題で、インターネットはそれを象徴的に表してると考えています。この発想がこの映画の原点になっています」と伝えた。 そして、ワールドプレミア上映に黒沢が姿を見せると観客たちからは大きな拍手が。上映終了後にはスタンディングオベーションが起こり、黒沢は安堵したような笑顔を見せ、会場をあとにした。 「Cloud クラウド」は9月27日より東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国でロードショー。