ヴィム・ヴェンダース監督へインタビュー! オール日本ロケの最新作の舞台は、あの公共建築でした。
オール日本ロケで撮影された最新作『PERFECT DAYS』。舞台になったのは〈THE TOKYO TOILET〉でした。 【フォトギャラリーを見る】
渋谷区のトイレの清掃員として働く男・平山。早朝に起き出して身支度を整えると、音楽を聞きながら軽バンで仕事場へ。几帳面かつ熱心に掃除の仕事をこなし、小さな下町のアパートに帰る。空き時間は読書や、古びたフィルムカメラでの撮影。静かに、淡々と日々を過ごす彼のもとに、ある日ささやかだけれど思いがけない出来事が起きる……。
世界中にファンの多い巨匠ヴィム・ヴェンダースの最新作がオール日本ロケであったことに加え、主演の役所広司が第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞したことも大きな話題を集める『PERFECT DAYS』。建築&デザイナー好きの読者にとっては、重要な見どころがもうひとつある。平山が働くのは〈THE TOKYO TOILET〉。安藤忠雄、伊東豊雄、坂茂、隈研吾ら日本を代表するクリエイターたちが設計した渋谷区のトイレの数々がロケ地になっているのだ。
「あのトイレ作品を知ったときは本当に驚きました」と監督。 「デザイナーは活躍をよく知る方ばかりですし、そういう方々がトイレを設計しているんだ! と。実際に見ると、最小限な機能のみを持っている公共空間に、それぞれの個性が発露しているし、いうまでもなく美しい。当初はそれらを短編で表現するという案だったのですが、こういう建築のある東京の街の物語を紡ぐ方がふさわしいと考えるようになりました」
〈THE TOKYO TOILET〉をきっかけのひとつとして生まれた物語。平山が住む東京墨田区の下町の風景と、職場のある渋谷区の都会の景色、ふたつの東京のリアルが、ロードムービーのように流れていく首都高のシーンで結びつく。 「どちらの東京も好きですね。コロナ禍を抜けて東京に来たとき、人々が喜びながら日常を取り戻しつつある雰囲気に心を打たれたんです。日本は今、やや低調だという見方もあるけれど、私はそうは思いません。人々、特に若い人々の目には希望と自信が宿っている。だからこそ私もここでポストパンデミック1本目の映画を撮ることができました。コロナ禍を経て何が変わり、変わらなかったか、人生とは何か、どうすべきか……。映画を撮り始めた最初の頃のような気持ちを持てました」