「世界初の量産ターボバイク」の気になる価値とは? 超希少な“ワケありバイク”カワサキ「Z1R TC」が10台まとめてオークションに登場
破壊的パフォーマンスを誇った伝説のバイク
バイク史に燦然と輝く伝説のバイクといえば、カワサキ「Z1R TC」でしょう。1978年に世界で初めて量産ターボバイクとして登場したこの革新的バイクの貴重なコレクションがアメリカのeBayに登場。多くのバイクファンから注目を集めました。 【画像】「えっ…!」これが世界初の量産ターボバイク カワサキ「Z1R TC」です(13枚)
なかでも驚くのは、オリジナルの「Z1R TC」7台に加え、クローン車両が2台、そして、ユニークなスーパーチャージャー仕様の“ブロワーバイク”1台という、まさに歴史的な10台を一気に手にするチャンスだったこと。 「Z1R TC」の総生産台数は約500台。しかも、コレクターである出品者のジョニー・ボーマー氏によれば、現存する「Z1R TC」は90台ほどと見積もられています。多くは事故やドラッグレース車両への転用に伴う改造で失われていったのだそうです。 「Z1R TC」誕生の物語は、1970年代にさかのぼります。 ポルシェ「911ターボ」に代表される過給機ブームの中、カワサキは。「Z1R」に過給機を取りつけるという大胆な決断を下したのです。 こうして誕生した「Z1R TC」には、ちょっとした秘密がありました。というのも“純粋”な日本製ではなかったのです。 カワサキは、標準型の「Z1R」を米国に輸出し、カワサキのアメリカ法人の元社員であったアラン・マセク氏が立ち上げたターボサイクルカンパニーで特別な改造を実施。 標準型の排気系とキャブレターを取り外し、新設計のエキゾーストマニホールド、ATPターボ、可変ウェストゲート、そしてベンディックス製キャブレターを搭載。ブーストゲージを装備し、専用デカールも施されました。 8500rpmで最高出力130psという、1970年代後半としては常識外れのパワーを誇った「Z1R TC」。当時のサスペンションとブレーキでは制御が難しく、熟練ライダーでさえ手を焼いたといいます。しかし、その破壊的なパフォーマンスこそが、このバイクを伝説へと押し上げたのです。 1/4マイルを11秒以下、最高速度は125マイル以上という驚異的な速さを記録。ただしこれらの記録は、クラッチが破損するか制御不能に陥るまでの命がけの走行によって達成されたものだったといいます。 面白いのは、購入時に“免責事項"への署名が必要だったこと。このモデルがいかに危険……もとい、特別な存在だったかがうかがえます。 1979年モデルでは、4-1エキゾーストマニホールドの採用やターボラグの軽減など、熟成が図られました。 しかし1980年、カリフォルニア州で新たな排ガス規制が施行され、第三者による排気系改造が禁止されることに。こうして「Z1R TC」の生産は1979年末で幕を閉じることとなったのです。 ●歴史的価値あるコレクションは驚きの安さ 今回出品された10台には、それぞれ詳細な来歴が付属しています。 とりわけ、スーパーチャージャー仕様の“ブロワーバイク”は、「Z1R TC」の異端的進化を示す貴重な1台としてコレクターたちの心をつかんで離しません。 量産ターボバイクの先駆けとして、そして、1970年代カワサキの挑戦的スピリットを象徴する存在として、「Z1R TC」の歴史的価値は計り知れません。 ちなみに、10台セットでという価格がつけられていました。 ボーマー氏は当初、同コレクションを38万5000ドル(約6076万円)で出品していましたが、最終的には35万2500ドル(約5564万円)で落札されました。 二輪の歴史に大きな足跡を残したこの10台が、これからどのような運命をたどっていくのか。世界中のバイクファンがその行方を見守っていることでしょう。
古賀貴司(自動車王国)