とらやはなぜエルメスのライバルになり得たのか ラグジュアリーの定義から紐解く
なぜ「とらや」は海外メゾンに認められるのか?今日におけるラグジュアリーブランドになるための6つの条件
今日におけるラグジュアリーの条件とはなんだろうか。経済産業省が2022年に発表した「ファッションの未来に関する報告書」によると、時代を経て「ラグジュアリー」の在り方は移り変わっており、これからのラグジュアリーの条件として「世代から世代へ、永遠に続いていくこと」「地域(ローカル)の伝統・文化への注目」「革新的なイノベーション」「素晴らしい素材」「職人によるクラフトマンシップ」「社会貢献的な利他性」と定義している。ここでは、「とらや」がなぜ名だたる海外メゾンに一目置かれるのか、6つの条件に当てはめながら検証していこう。 1. 世代から世代へ、永遠に続いていくこと 2. 地域(ローカル)の伝統・文化への注目 3. 革新的なイノベーション 4. 素晴らしい素材 5. 職人によるクラフトマンシップ 6. 社会貢献的な利他性
1. 世代から世代へ、永遠に続いていくこと
現在の「とらや」社長は第18代 黒川光晴氏。黒川円仲を初代当主とし、代々引き継がれている。「世代から世代へ永久に続いていく」といった条件については、約500年という長い歴史を持つとらやなら当然クリアしていると言えるだろう。
2. 地域(ローカル)の伝統・文化への注目
とらやはこれまでの5世紀にわたる歴史の中で伝えられてきた、和菓子にまつわる古文書、古器物などを資料室「虎屋文庫」で管理。そのほか、機関誌『和菓子』の発行や展覧会の開催、ホームページでの紹介などを通して、和菓子全般の魅力を広く世間に向けて発信している。とらやで取り扱っている和菓子は発祥の地である京都から受け継がれているものが多く、これらのことからもとらやは地域の伝統に根差した企業であると言えそうだ。
3. 革新的なイノベーション
銀座の直営店「TORAYA GINZA」では、ラズベリー、ライム、パッションフルーツなどの果物を用いた羊羹「ちぐさかん」を提供。銀座は日本人だけでなく、外国人観光客も多く訪れるエリアということもあり、「初めて和菓子に触れるお客様に、いかに喜んでいただくかを考えて商品やメニューを考案した」と広報担当者。代々使われてきた伝統的な和菓子の材料にこだわらず、海外から伝わったフルーツをメインに使用した同商品は、外国人観光客だけでなく日本人からも好評を得ているという。 変化を恐れないとらやの姿勢は、店舗設計にも表れている。同社は、2018年に旗艦店の1つである赤坂店をリニューアルした。当初は法規で許される限りの容積を利用した大きな建物にする予定だったというが、「物質的に豊かになった今は、人々が求めているものは店舗の大きさよりも、ゆったりと過ごす時間や居心地の良さなのではないか」と価値観をアップデート。和菓子屋として必要最低限の要素を持たせた4階建てに計画を変更した上で、建築家 内藤廣の設計のもと、「簡素にして高雅」をテーマにした「都心にいることを忘れ、豊かな時間を楽しめる店舗」を完成させた。