登山で「子どもを先に歩かせる」が絶対NGである理由 『子ども版 これで死ぬ』が教える山の原則
初心者向きの山であっても、命を落とす事故は起こります。山道で子どもを先に行かせるのが絶対NGな理由とは? 登山の前に学んでおきたい「子どもの命を守るための知識」を、書籍『子ども版 これで死ぬ 』よりご紹介します。(記事内の写真はイメージです) ※本稿は書籍『子ども版 これで死ぬ』(羽根田治 監修,藤原尚雄 監修,松本貴行 監修,山中龍宏 監修,大武美緒子 文/山と渓谷社刊)より一部抜粋・編集したものです。本記事の内容は同書より基本的な情報の一部を掲載しています。より詳しい情報は同書や、専門の解説書や講習会などをご参照ください。
ひとりで先に行って落ちる
宮崎、鹿児島県境の韓国岳(1700m)で、10月下旬、家族と登山に来ていた11歳の男の子が、2合目付近で「先に行く」とひとり山頂に向かったまま行方不明になりました。2日後、8合目付近、登山道をはずれた約3~6m下の枯れた沢で見つかり死亡が確認されました。死因は低体温症でした。斜面を転落しケガをして動けなくなった可能性があります。入山した日は晴れでしたが、翌日は強い雨風で登山口付近の最低気温は7℃でした。
死なないためには
●子どもを先に行かせない 初心者向きの山でも、子どもをひとりにする、大人より先に歩かせるのはNGです。また子どもにも、事前に一緒に登山用地図を見ながら、歩く予定のコース、注意する箇所、大人から離れないようにすることをしっかり伝えましょう。万が一はぐれてしまったら、できるだけ人の目につきやすい場所で動かずにいることを約束しておきましょう。 ●谷側を歩かせない 低山や初心者向きの山でも、登山道の谷側が崖になっている箇所があります。とくに小学校低学年ぐらいまでの子どもと歩く場合、大人が谷側を歩いてフォローし、子どもは山側を歩かせます。 ●下山時のリスクを考えた計画に 転滑落や転倒は、疲労で注意力が散漫になったときに起こりやすく、下山時に事故が多いのも特徴です。とくに子どもは、登りでオーバーペースになりやすい傾向があります。下山時に急斜面や危険な箇所を避けるコースにするのがポイント。下山時にロープウェイなどの乗り物を利用するのもおすすめです。 ●夏でも低体温症対策を アクシデントで明るいうちに下山できなくても落ち着いて行動できるよう、日帰りでもヘッドランプはひとりに一つ持ちます。 標高の高い山に行く場合、夏でも防寒具を持っていきましょう。標高が100m上がるごとに、気温は0.6℃下がります。たとえば1000m地点で25℃だったとしても、2000mでは19℃、3000mでは13℃。風が吹くと体感温度はさらに低くなります。夏でも低体温症による死亡事故は、過去に何度も起きています。熱を生み出す筋肉量が少ない子どもは、大人に比べて低体温症になりやすい傾向があります。汗で濡れると、冷えて体力が奪われます。吸汗速乾性素材の登山用ウェアがあれば、安心で快適です。 【レイヤリングの基本】 ベースレイヤー:肌に直接触れるため、肌をドライに保つ吸汗速乾性のものを。素材がカナメ ミッドレイヤー:おもに保温、汗、湿気を発散させる役割がある。季節によって長袖シャツやフリースなどをチョイス アウター:雨や風から体温を奪わないように身を守る。登山用のレインウェアを携行しよう 山では体温調節をこまめにできる重ね着(レイヤリング)が基本。それぞれの役割にあったアイテムを選ぼう ●晴れていてもレインウェアを持っていく 麓の街では晴れでも、山では雨ということも。晴れていてもレインウェアを持参します。観光地に売っているようなビニール素材の雨がっぱは蒸れるうえに、風にあおられてめくり上がってウェアが濡れてしまうため登山には向きません。上下セパレートタイプ、完全防水、透湿性素材の登山用のレインウェアは、外からの雨を防ぎ、内側の蒸れを外に出す仕組みになっています。防風、防寒も兼ねることができるため、子どもの普段の通園・通学、さらに防災用にも活躍します。
羽根田治(監修),藤原 尚雄(監修),松本 貴行(監修),山中 龍宏(監修),大武 美緒子(文)