『スカーレットネクサス』ディレクター、なぜか女性キャラのコスプレで東京マラソンの42.195kmを完走する。心折れそうな時に支えてくれたのは、駆けつけた同僚や開発スタッフの応援だった──。
「『スカーレットネクサス』のキャラのコスプレで東京マラソンを走るのですが、これって取材の対象になりますか?」 【この記事に関連するほかの画像を見る】 ──という相談を受け、電ファミで取材というのは正直難しいけど、どうもマラソンに関してはガチっぽい。というわけで、東京マラソン自体のレポートを直接ご本人に書いていただきました。(電ファミ編集部) ■自己紹介 はじめまして、穴吹健児と申します。 バンダイナムコスタジオという会社で、これまで「テイルズ オブ」や「スカーレットネクサス」などのゲーム開発に携わってきました。 「誰??」って思う方がほとんどだと思いますが、電ファミニコゲーマーさんで昨年「スカーレットネクサスのスクショを1000日間投稿し続けた」ことを記事として取り上げて頂いた者です。 「あぁ、そんな人いたかもね」と、うっすら覚えてくれている方がいたら嬉しいです。 そんな「いちゲーム開発者」がゲームメディアで何かを書かせて頂く機会など普通はめったにないのですが、今回「僕が東京マラソンにスカーレットネクサスのキャラのコスプレで走ることを触れて頂けないか」と非常に厚かましくも相談したところ、編集長のTAITAIさんの神のご厚意でレポートを書かせて頂くことになった次第です。 「一生に一回くらいマラソンにチャレンジするのも悪くないかも」 この記事を通じて「マラソンの魅力」というものが少しでも伝わり、今後の人生において「マラソンにチャレンジするという選択肢」を少しでも考えてもらえるきっかけになれば幸いです。 そして、そのついでにゲームのコスプレで走る変な開発者のことをチラッとでも知って頂けると嬉しいです(笑) ■東京マラソンとは? 2007年から開催されているマラソン大会で、東京都庁からスタートし、浅草や秋葉原、東京タワー周辺などの観光地を含む東京都内をぐるりと巡り、東京駅前の行幸通りでフィニッシュとなります。 フルマラソン(42.195km)と10.7kmとのコースがあり、フルマラソンは満19歳以上、10.7kmは満16歳以上であれば参加可能です。 いきなりフルマラソンはちょっと……という方は、まずは10.7kmに参加してみるのも良いかもしれません。 オリンピックなどの選考に関係するレースである一方で、僕のような完走を目的としたエンジョイ市民ランナーも沢山参加する大会で、今年も38,000人ほどが東京の街を駆け抜けました。 世界で最も名高い6つのマラソン大会の1つに選ばれており、海外の方の参加率も非常に高いです。 ■なぜ東京マラソンを走るのか? 元々、コロナ期に上司の影響でほぼ毎日ジョギングをしていたのですが、同時期にスカーレットネクサスを知ってもらうために、ゲームのスクショをX(旧Twitter)上に毎日アップするという活動も行っておりました。(今もやってます) それら2つの活動がかけ合わさり「スカネクのコスプレで東京マラソンを走る」という、1つの答えに到達しました。 スミマセン、よくわからないですよね(笑) 自分が作ったゲームを全力で推す様を、マラソンを通じて発信できたら、そのゲームを好きになってくれた方、プレイしてくれた方に「ちょっと面白い感じで感謝の気持ちを伝えられるかな」と思い、チャレンジしてみることにしました。 ただ、それだけでなく、シンプルに「東京の街を走ってみたい」という想いがありました。 普段、電車で通っていた場所に車で行ってみることで、点と点が繋がって線になり、その街に対する解像度が上がったという経験がある方はいないでしょうか? 僕は新宿によく遊びに行っていたのですが、初めて車で行った時にその感覚になり、もし車ではなく「自分の足で走った時にどんな景色が広がっているんだろう」というワクワクする気持ちがありました。 そんな幾つかの想いで僕のココロはオドリ、気づけば「東京マラソン 応募」で検索していました。 ■申し込み 東京マラソンにはオフィシャルサイトがあり、ここから応募することが出来ます。 毎年3月の第一日曜日に開催されるのですが、応募のタイミングはかなり早く、前年の8月に申し込みをする事になります。 東京マラソン2024に関しては、応募は2023年8月14日~8月25日の期間と限られています。 「走るのはまだまだ先だ」と構えていたら、うっかり応募期間を逃してしまいそうな時期である一方で、「走るのが決まってから本番までの準備期間がしっかり取れる」スケジュール感となっています。 倍率は10倍以上と言われており、簡単には当選しないことでも有名です。 実は僕は昨年、当選しており、2年連続は流石に難しいだろうと思いながらの応募だったのですが、なんと今年も当選。 もの凄い幸運だという事を自覚しつつ、「走れない方の分までしっかり走らなければ」という使命感のようなものが湧いてきます。 ■本番に向けたトレーニング 当選の連絡を受けてからマラソン当日まで半年ほどあり、その期間を使って準備をします。 僕は普段、5km~7kmくらいのジョギングをしており、数カ月かけてその距離を延ばしていきます。 最初は中々、長い距離を走ることが出来ないのですが、死にかけるたびに強くなることで身体が徐々に長距離に慣れていきます。 その内、20km程度であれば何とか走れるようになるものの、その先の30kmに大きな壁があり、30kmを超えて走ると途端に足が前に出なくなったり、息が苦しくなってきたりします。 長距離のジョギングでしんどくなった時は「今スタートしたつもりになる」という技で乗り切れることもあるのですが、30kmを超えると「蓄積ダメージが100%を超えた状態」である事を自分に隠せなくなり、その技も通用しなくなります。 ヘロヘロで帰宅して家族に介抱されるという日もありました。 そんなこんなで本番に向けたトレーニングを重ねます。 ■僕はカサネになる 僕は昨年、スカーレットネクサスの主人公ユイトのコスプレで東京マラソンを走りました。 まさか今年も当選すると思っていなかったので、最初はどのキャラのコスプレをするか決められてませんでした。(コスプレするのは前提) 飲みの席でその話題になり、「テイルズ オブ アライズのアルフェン」という意見もあったのですが、「ユイトをやったのだから次はカサネしか無いだろう」という意見が強く、僕もそうかなと思い始めました。 こんなオッサンが女性キャラのコスプレをするのはイタ過ぎる。 最初はそんな風に考えてもいたのですが飲みの席の勢いも加わり、「イタいくらいの方が見た人に面白がってもらえそう」「どうせやるなら振り切った方が面白い」という考えに完全に切り替わりました。 こうしてスカーレットネクサスのもう一人の主人公、カサネのコスプレで走ることを決め、昨年、ユイトのコスプレ衣装を作成してくれたソウさんや同僚の三崎さんなどの協力で衣装制作が進みます。(感謝) そして全ての衣装が揃ったのは、本番の3日前。 素晴らしいクオリティの衣装を身に纏い、カサネになった自らの姿を見てテンションを上げ、本番に臨みます。 ■実際に走ってみた感想 東京マラソン当日、朝5時に起きて準備を進めます。 カサネになった父の姿に小6の息子は若干ひいていた気がしましたが、そんなことは気にしていられません。 僕は最後部のLブロックに入り、スタートの時を待ちます。 そしてスタート!……となってもLブロックの人間はまだ動きません。 38,000人ものランナーがいるわけですから、ブロックごとに少しずつずらしてスタートしていきます。 マラソンには「グロスタイム」と「ネットタイム」というものがあり、「グロスタイム」は大会規定の号砲と同時にカウントされる時間で、「ネットタイム」は実際に自分がスタートしてからカウントされる時間となります。 ランナーが自分の記録として扱うのは、大体「ネットタイム」の方となります。 我々、最終Lブロックは号砲から30分遅れくらいでのスタートです。 僕はスタート台の小池百合子都知事とバッチリ目が合い、手を振られ、早くも振り切った目立つ格好で挑んだ恩恵にあずかります。 他のマラソン大会を走ったことがあるわけではないので比較は出来ないのですが、東京マラソンはとにかく沿道の応援がとてもあたたかいです。 見ず知らずの方が自分のことを応援して、手を振り、ハイタッチをしてくれます。 僕は出来るだけ応援パワーを貰えるように、沿道寄りを走ります。 この日、我々ランナーは東京の街で主人公になっている。 そんな高揚感に背中を押され、いつもより早いペースで走れているような気がします。 そしていつもは車でしか通れない道を自分の足で走るというのも、非常に特別な感覚を得ることが出来ます。 新宿から水道橋、秋葉原、浅草と自分の足で踏破する事に達成感を覚えます。 僕は普段、門前仲町にあるバンダナイムコスタジオに勤めているのですが、いつも見ている駅前の赤札堂の看板が見えてきたときは、何とも言い難い非日常のシチュエーションに大きな感動が得られました。 また、ちょっとした坂道に差し掛かった時、物凄い人数が走っている様が見え、圧倒されると同時に「苦しい道のりを共に進む同志がこんなにたくさんいて心強い」という気持ちになれました。 そんな東京マラソン。僕はカサネのコスプレで走っています。 コスプレしている人は沿道の方から声をかけてもらいやすいのですが、銀髪ロングのカサネは兎に角目立つので、沢山のお声がけを頂きます。 お姉さん頑張ってーー! 髪サラサラで綺麗だよーー! 何娘かな?頑張れーー! エヴァンゲリオンかな?頑張れーー! よくわかんないけどなんかすげーやつがいる!! 同じランナーからも「走りながら写真を一緒に撮ってくれ」と2回ほどお声がけ頂きました。 体感、昨年ユイトで走った時の2倍以上はお声がけ頂いたように感じます。 「イタいくらいの方が見た人に面白がってもらえそう」という考えは的中したようです。 そうこうしている内に30kmを通過。 応援パワーでいつもより頑張れてはいるものの、30kmの壁。しんどいものはしんどいです。 東京マラソンのコースは終盤、34kmを通過したあたりで日比谷公園から芝公園、田町駅前まで行って、同じ道を折り返して帰ってくるのですが、折り返し地点までが本当に遠くて辛い…… 折り返して帰ってくるランナーがとても羨ましく、そっちの道に行きたいという気持ちなります……(-_-;) そんな中、僕を支えてくれたのはやっぱり応援でした。 特に僕自身を応援しに来てくれている方。 スカネクの開発を共にしたトーセのスタッフがわざわざ京都から駆けつけてくれたり、会社の同僚がうちわを作って応援してくれたり本当に力を貰えます。 そんな山王戦の三井寿のように周りに支えられた状況で、動かなくなった足が再び動き始めます。 最後の力を振り絞り、田町駅前で最後の折り返し。 行幸通りに入ると沿道の応援は最高潮となり、多幸感に包まれながらその時を迎えます。 5時間19分45秒(ネットタイム)。 決して誇れるタイムではありませんが、応援の力に支えられ、ボロボロになりながらも何とかゴールすることが出来ました。 ■なぜ、人はマラソンを走るのか? なんでこんなアホみたいにしんどいことをするのでしょうか。 健康のため、自己研鑽のため、想い出作りのため。 人によって理由が違う部分はあるとは思います。 ただ1つ、間違いなく言えるのは、マラソンは他の何事にも代え難い達成感を得られるということです。 その達成感を糧に、今後の人生の様々な困難を乗り越え、毎日の瞬間瞬間を笑顔で生きるため、人はマラソンを走るのでしょう。 「一生に一回くらいマラソンにチャレンジするのも悪くないかも」 マラソンの魅力が少しでも伝わり、1人でもそんな気持ちになってくれれば幸いです。 最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
電ファミニコゲーマー:
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