中村隼人が『マハーバーラタ戦記』の再演に奮闘中! 新たな役で感じる古典のチカラ【前篇】
「菊之助兄さんの存在が大きい」
――戦の絶えない人間界を神々が憂える中で、迦楼奈も阿龍樹雷も神と人間の間に誕生した子。迦楼奈は戦を止めるため、阿龍樹雷は圧倒的な武力によって世界を制圧するため、相反する使命を担っている存在。取材会の席で役どころについて少し迷っているような発言がありました。それはどんなことだったのでしょうか。 迦楼奈は、五王子たちのいとこである鶴妖朶(づるようだ)王女に永遠の友情を誓うことになり、それによって決して正しいとはいえない方向にいってしまいます。すると阿龍樹雷たちが言っていることの方が正義のように聞こえてくる……。迦楼奈目線でご覧になっているお客様にとって、それはどう映るのだろうかと思ったんです。ですからそのバランスに気をつけながら日々探っています。 ――文字で考えるとそうかもしれませんが、生身の人間が舞台で演じているなかでは気になりませんでした。 それは菊之助兄さんの存在が大きいと思います。相手役として僕がやりやすい状況をつくってくださるんです。踊りや立廻りなどの場面での身体の使い方でもそれを感じます。ですから兄さんの望む方向についていけるように、対応できるようでなければと思っています。 ――ふたりが真っ向から衝突する大詰の立廻りは、両花道を使った登場シーン含め圧巻ですね。 客席が減ってしまいますし仮花道を設置するのは大変だと思いますが、やはり両花になると演出の幅が広がっていいですよね。お客様も喜んでくださいますし、演じている方も高揚感を感じます。迦楼奈との立廻りは『仮名手本忠臣蔵』に例えるなら小林平八郎と竹森喜多八の泉水の立廻りの様にとらえています。 ――1対1で激しくぶつかり合う「泉水の立廻り」は『仮名手本忠臣蔵』の立廻りの中で最大の見どころ。さまざまなシーンで古典の経験がヒントになっているのですね。
清水まり