年の差を超えた友情を描いた邦画の傑作は? 珠玉の名品(5)ズシリとくる…児童虐待に鋭く切り込んだ意欲作は?
人が心を通わせ合うとき、歳の差は問題ではない。しかし、何かと数字にとらわれてしまうのが人間だ。だからこそ、常識を超えた瞬間に心がときめく。今回は、歳の差のある友人関係を描いた日本映画を5本セレクト。一般的なバディものと一味違った、年の離れた人間同士の交流が育む温かな物語をご紹介する。第5回。(文・シモ)
『長い散歩』(2006)
監督:奥田瑛二 脚本:山室有紀子、奥田瑛二、桃山さくら 出演:緒形拳、高岡早紀、杉浦花菜 【作品内容】 厳し過ぎる性格が災いして、家族とバラバラに暮らすことになった松太郎(緒形拳)は、ある田舎町のアパートに引っ越す。隣室に住むのは子持ちのシングルマザー(高岡早紀)だ。彼女は幼少の娘・幸(杉浦花菜)を虐待していた。そのことを知った松太郎は、幸を連れて旅に出るが…。 【注目ポイント】 本作は、俳優の奥田瑛二が監督と出演を兼ねた映画だ。主人公の松太郎は、かつて高校の校長先生を勤め上げた男。厳格すぎる性格が災いして妻には先立たれた。実の娘はいるが、疎遠にしている。 彼は虐待を受け続ける幸を見て、自分の家族をないがしろにしてしまった過去を重ねる。松太郎は罪滅ぼしのために、幸を救おうとするのだが、救うといっても少女との接し方がわからない。 自身もきちんとした子育てをしていなかったのに、他人の子供のことなどわかるはずがないのだ。「何を食べさせていいのか?」「どんな言葉をかけたらいいのか?」松太郎は短い旅で幸と接する中で、その答えを見つけていく。 物語の終盤。松太郎のまっとうに見える勇気ある行動は、世間一般の正義により「誘拐」というレッテルが貼られ、逮捕という形で終わってしまう。しばらくして松太郎は、一人刑務所を後にする。 しかし、そこに待っている人は誰もいなかった…。 本作は、不景気による貧困や少子化の影響で生じる家族の孤立などから起きる、児童虐待の問題に鋭く切り込んだ作品となっている。 (文・シモ)
シモ