「50代で仕事の意義を見失う」人が多くなるという「驚きの実態」
年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70歳男性の就業率は45%――。 【写真】意外と知らない、日本経済「10の大変化」とは… 10万部突破のベストセラー『ほんとうの定年後』では、多数の統計データや事例から知られざる「定年後の実態」を明らかにしている。
私たちはなぜ働くのか?
人は何を求めて仕事に向かうのだろうか。大前提として、多くの人が仕事をするにあたって欲するのは経済的安定である。一部の資産家を除いて、収入を得るための手段としての仕事を否定する人はいないと考えられる。 しかし、働くことの意味はそれだけではない。働くことを通じ、人は有形無形問わず、様々なものを得ているのもまた事実である。仕事に対する価値観を体系的にまとめたのが、心理学者のドナルド・E・スーパーである。彼は、職業価値(work value)を経済的な安定を得ることだけではなく、自分の能力が活用できること、人の役に立てることなど、20の尺度にまとめている。仕事に対して抱く価値観は、職業選択のみならず、仕事以外の生活面における様々な役割にも影響を及ぼす。 「シニアの就労実態調査」では、働くうえで大切にしている考え方をスーパーの尺度をもとに計29の価値観としてまとめている。同調査ではこの29の価値観それぞれについて、重要と思うか、そうでないかを5つの選択肢から選んでもらう5件法で尋ねており、そのデータをもとに因子分析を行っている。 因子分析の結果によると、現代の日本人が働く上で感じる価値観は大きく6つに分類できる(図表1-33)。すなわち、「他者への貢献」「生活との調和」「仕事からの体験」「能力の発揮」「体を動かすこと」「高い収入や栄誉」である。多くの人にとって、これらの要素が働く上でのモチベーションになっている。
20代から50代にかけて、仕事に意義を見出さなくなっていく
年齢を経るごとに、その価値観がどのように変わっていくのか。各因子得点の推移を年齢別に表した(図表1-34)。 これをみると、20代は仕事に多くの価値を見出す年代だということがわかる。20代の因子得点が最も高いのは「高い収入や栄誉」となっている。 若い頃にこうした目標を持つことは、意欲高く仕事をするうえで大切なことであり、それが職場によい競争を生み出し、結果として組織のパフォーマンスも高まっていく。若手社員が「高い収入や栄誉」に価値を感じて互いに切磋琢磨(することには大きな意味があると言える。さらに、「仕事からの体験」や「能力の発揮」も得点が高い。新しい仕事に楽しさを見出し、仕事能力の向上を実感することができる年代が20代である。 しかし、歳を経るにつれ、仕事を通じて感じる価値は減じていく。30代になると多くの因子が急激に下がり、仕事に対して緩やかに価値を感じなくなっていくのである。 人数自体は減少していくが、会社で地位を上げ収入を高めることに希望を見出す人は、30代や40代の時点でもなお一定数存在している。ただし、それ以外の要素はだんだんと重要だと感じなくなってくる。「生活との調和」は引き続き重要な価値となっているが、これは家庭を持って子供ができ、仕事を通じて家族の生活を豊かにすることを求める人が増えるということだろう。 多くの人が仕事に対する希望に満ち溢れていた20代から、人は徐々に仕事に対して積極的に意義を見出さなくなっていく。そして、落ち込みの谷が最も深いのが50代前半である。この年齢になるとこれまで価値の源泉であった「高い収入や栄誉」の因子得点もマイナスとなり、自分がなぜいまの仕事をしているのか、その価値を見失ってしまう。 定年が迫り、役職定年を迎える頃、これからの職業人生において何を目標にしていけばいいのか迷う経験をする人は少なくない。そうした現実がデータからうかがえるのである。