目利きの店主と会話して選ぶ。
大人への道中、時に迷うことがあっても、慌てず騒がず諦めず。自分を見失うことなく着実に歩を進めるべく、携えてほしい一冊がある。それは、昭和を代表する時代小説家、池波正太郎が残した『男の作法』。身だしなみ、食、女性、家……。1981年、58歳の池波センセイが自身の来し方より導き出した、微に入り細を穿つ“大人の男のあり方”は今もなお、僕らの心に響く。 優等生を目指す必要はないけれど、意識するところから、大人への道は始まる。
『男の作法』より
バーの醍醐味というのは、ホステスと仲よくなるより、バーテンと仲よくなることが一番いいわけなんだ。それでなかったらバーに行く面白味はない。
玄人の言葉に耳を傾け、“目”を養う。
バーテンダーは、いろんなことを知っている。酒に詳しいのは当然、大人の男がどうやって酒を飲み、仲間と語らい、時を過ごしているかを、カウンター越しに見てきたから。言ってみれば大人と酒の目利き。だから女の子に色目を使ったりしてないで、バーテンと仲良くなるのがいい。池波センセイも、足繁く通った山の上ホテルのバーで、いろんなことを教わったのかもしれないな。
この池波作法を、僕らなりにアップデートしてみたい。カウンターでバーテンとのシングルモルト談議もいいけれど、シティボーイの日常に、もっと近いところにいる目利きと仲良くなれたなら。きっとさらに楽しく大人の男になれそうな気がする。
そこで「古いものとか家具とか、少しずつ集めるのが好き」という俳優の中島歩さんを誘って訪れたのはショッップ兼ギャラリー『プラグマタ』。オーナーのペトロス・テトナキスさんは、ロンドンと東京でファッションの仕事をしながら、陶器や金属や道具の作家について学んできた人だ。ここで扱うのは彼が本当に好きだと感じる作品だけ。生活に近いアートの、誠実な目利きなのだ。そんな空間を見回して、ひとつの陶器を手にして、中島さんはぽつり。「これはどうやって使うのかな」
ペトロスさんは静かに教えてくれる。
「海外では日常使いするのは量産のもの。こういう作家さんの作品はディスプレイして楽しむことが多いです。ホームパーティで見てもらったりね。使うことに限定しないで直感の"好き"を信じて選ぶようになると、楽しみ方の幅が広がると思いますよ。見てるだけで気持ちよくなったり。そういうものを実際に使ってみると、新しい感覚に出合えたりもします。味が違って感じるとかね」