FC東京の久保建英が咄嗟に選択した1本のパスの凄みとは?
鳥栖のキーパー大久保択生が前へ飛び出せず、下がってきていた藤田も三丸も足を伸ばせないルートにピンポイントで、それでいて緩やかなカーブの軌道を描くグラウンダーのクロスが利き足の左足から放たれる。右足で押し込むだけだったジャエルは、来日初ゴールに笑顔と言葉を弾ませた。 「素晴らしいクオリティーのパスだった。彼は今シーズン、30個くらいアシストをするだろうから、半分の15個を僕に決めてほしいね」 リーグ戦で3試合連続の先発を射止めた鳥栖戦で、後半36分に記念すべき瞬間が訪れた。FC東京が最後の交代選手として、大森をスタンバイさせる。過去2試合の流れを見れば、ともに久保との交代が告げられていた。翻って、鳥栖戦で交代を命じられたのはMF高萩洋次郎だった。 この瞬間に、昨年8月から期限付き移籍した横浜F・マリノス時代を含めて、J1リーグ戦で通算14試合目にして初めてフル出場することが確定した。 「気がついたら(試合終了を告げる)笛がなっていたので、それほどすごく疲れたわけではないですけど、達成感はありますね」 加えて、キックオフの笛が鳴った直後から、右MFに入った久保の対面、鳥栖の左MFでは同じ2001年生まれで、自分よりも誕生日が3日だけ早い松岡大起が闘志をたぎらせていた。 「17歳で同じ歳だというのは意識していた。久保選手は自分よりもずっと一歩、二歩、三歩先をいく存在だったし、しっかりぶつかってボールを奪ってやろうという気持ちはありました」 ユース所属の2種登録選手ながら、ヴィッセル神戸との前節でいきなり先発フル出場。ベガルタ仙台とのYBCルヴァンカップ予選リーグ開幕戦でも先発し、最後までピッチに立った松岡は、今シーズンから指揮を執るルイス・カレーラス監督の厚い信頼を勝ち取っていた。 久保が常に年代別の代表へ飛び級で招集されてきたこともあり、2人の間に面識はない。今年1月下旬に行われたU-20代表候補合宿でも、けがで辞退した久保に代わり、すれ違いの形で追加招集されたのが松岡だった。前半は幾度となくデュエルを展開した松岡へ、久保もリスペクトの念を抱いていた。 「松岡選手はルヴァンカップも含めて(1週間で)2試合、フル出場している。自分だったらかなり消耗してしまうところで、(今日も)90分間プレーしている。声もすごく出していたし、気迫もあった。同じ年の自分が言うことじゃないですけど、若いのにあのがむしゃらさはすごいと思いました。これから2人ともどうなるかわからないですけど、いつか一緒に(代表で)プレーできる日がくればいいかなと思っています」 鳥栖が退場者を出した後半16分以降は、ポジションをトップ下に移した。同19分には左足から強烈なシュートを放ったが、昨シーズンまでFC東京のチームメイトだったGK大久保の正面に飛んだ。 「決められなかったのは悔しいけど、結果的にチームが勝てたのでよかったです」