FC東京の久保建英が咄嗟に選択した1本のパスの凄みとは?
相手ゴールへ迫っていく数秒の間に脳裏に描いていた青写真を修正した。試合を重ねるごとに存在感を増しているFC東京の17歳、MF久保建英が非凡なセンスをフル稼働。J1の舞台では初めてとなるアシストをマークして、チームのホーム開幕戦白星を決定づけた。 サガン鳥栖と味の素スタジアムで対峙した、10日の明治安田生命J1リーグ第3節。FC東京が1点をリードしたまま、5分台が表示された後半アディショナルタイムが半分ほどに達したときだった。 後方からの縦パスを、後半途中からデビューしていたFC東京の新外国人、FWジャエルが胸で後方へ落とす。ターゲットとなったFWディエゴ・オリヴェイラを味方と2人ではさみ込もうと、鳥栖のDF高橋祐治が前方へアプローチ。必然的にFC東京から見て左サイドがガラ空きになる。 オリヴェイラの右斜め後方にいた久保が、相手が与えてくれたスペースを見逃すはずがなかった。スルスルとポジションを移し、オリヴェイラが競ったこぼれ球を拾ったMF大森晃太郎のスルーパスをフリーで呼び込む。すかさずドリブルを発動させた「15番」に、選択肢は3つあった。 胸でパスをしてから反転し、大きな弧を描きながらファーサイドへ走り込んでいたジャエル。久保よりやや遅れながらカウンターに加わり、ゴール中央へ迫ってきていたオリヴェイラ。そして、ニアサイドを目指してスプリントを駆ける大森。 久保のチョイスは、最初は大森だった。 「自分が中に入っていく立場だったら、マイナスで受ける場面が多いので。最初は大森選手の方を見ていたんですけど、自分のマークについていた選手が、露骨に大森選手の方へ来ていたので」 当初のプランは左角あたりからペナルティーエリアへ侵入したところで、マイナスの方向へパスを折り返して大森に合わせるパターンだった。しかし、それまで久保のマーク役だった鳥栖のボランチ、高橋義希が必死に大森をマークしながら追走してきている。 この瞬間に、大森へのパスという選択肢は消去された。次に何をすれば、最もゴールが決まる確率が高くなるのか。ドリブルを仕掛け、DF藤田優人との間合いもキープしながら、視野をマックスにまで広げた瞬間、久保はファーサイドからゴールの匂いを嗅ぎ取った。 「落ち着いて周りを見たときに、ジャエルが動き出しを2回しているのが見えました。あの動き出しは正直、機敏だと思いましたし、ならばいいボールを流し込めれば決めてくれると思いました」 ファーサイドへ走り込みながら、ジャエルはマーク役のDF三丸拡の背後から目の前に姿を現し、次の瞬間には大きく外側へ移る駆け引きを演じている。完全に三丸の死角を突いたジャエルに合わせるには、パスコースはひとつしかなかった。