【縮む地域で】山間地の分校、不利に挑む 受験指導、SNS活用で情報格差を埋める
人口が少ない地方の受験生は、都市部に比べ競争相手の数や指導体制などで格差がある。まして、山間地の小規模高校から難関大に挑むのは並大抵の困難ではない。そんな壁を乗り越えようと、内子高小田分校(愛媛県内子町寺村)は2023年度、有名大学の大学生とオンラインでつながり勉強をサポートしてもらうプロジェクトに取り組んだ。その結果、最難関の東京大に挑んだ生徒は健闘しつつも涙をのんだが、2人が広島大など第1志望に合格。人口減少が進む地域に住む高校生も、情報ツールを活用すれば努力次第で大きなチャンスがある―。そんな希望を垣間見せた。(今西晋) ■格差を埋めたい オンライン講座は、現役東京大生らが動画投稿サイトYoutubeで大学入試問題の解法解説などを発信している「PASSLABO(パスラボ)」(東京)が協力した。パスラボは、活動の柱の一つに「地方と都市の教育格差是正」を掲げている。塾や予備校が少ない地方の受験生に、最新の受験情報やモチベーション維持のための講座を提供している。 山間地に立地し、全校生徒70人余りの分校。例年卒業生の約半数が就職し、いわゆる「進学校」とは言い難い。しかし23年度は、東京大理科1類を目標にする男子生徒(18)ら進学を強く希望する生徒がいた。分校は希望をかなえるため、パスラボとの連携企画を始めた。 ■遠隔地でも 3月に分校で対面の講演会があり、オンライン講演会は7月と12月に開いた。講師を務めたのは、つい最近まで受験生だった有名大学の現役学生。「強みを一つだけでなく複数書き出し、掛け合わせると自分らしさが見えてくる」「目標から逆算して毎日やるべきことを決めよう」。主に伝えたのは効果的な勉強法や進学への考え方。役に立った参考書や、受験生時代に書き記したノートなどを示しながら具体的にアドバイスした。 ■きっかけはSNS 東京大を目指した男子生徒は東京都出身。「高校時代を自然豊かな環境でのんびり過ごしたい」と分校を選び、親元を離れ寮生活した。進路は何も考えていなかったという生徒が進学を志したきっかけも、SNSだった。Youtubeで大学教授の講義を視聴し、学問の面白さに目覚めた。将来は理系の研究者を志し「研究環境が一番整っている」(生徒)東京大受験を決めた。 長期の休みで帰省し、東京で予備校に通うことができる環境があった。学校側も、生徒だけに必要な「数Ⅲ」の特別授業を設けるなど可能な限り応援した。加えて、目標設定をする上で役に立ったのがパスラボ講座。オンライン講座では生徒のため個別相談の時間を設け、東京大の現役学生らが模試の成績を基に今後の勉強方針をアドバイスした。 「勉強のペースを教えてもらえたのが一番助かった。特に化学は授業に合わせて勉強したら受験に間に合わないので、どうやって先取りするか悩んでいた。具体的な目標を示してくれたおかげで間に合わせることができたけど、もし一人だったら解決できなかったと思う」(生徒) 全国模試では合格確率65%以上の「B判定」を獲得したこともあり、共通テストでは85%程度得点するなど健闘した。卒業後は自宅に戻って予備校に通い、再挑戦に向け勉強を続けているという。 指導に関わった東京大文科1類の現役学生清野孝弥さんは、生徒の挑戦を「努力や苦労の量は想像を絶すると思う」とたたえる。「自己管理を上手くこなしながら最後までやりとげたのは努力のたまもの。最後まで諦めず目標に突き進んだ姿は、他の同級生にも大いに刺激を与えたのではないか」 ■将来に種をまく 若者を引きつける有名大学の多くが大都市に立地しているのは、変えようがない現実。地方の高校生の受験を応援すれば人材流出を加速し、活性化に逆行するジレンマがある。しかし分校の存続戦略は、長期的な芽を育てることも含んでいる。卒業後に定住しなかった生徒も、将来の何らかの形で地域に関わってくれる可能性があるからだ。 「卒業生の人生は自分で決めること。しかし分校生はみんな、地元で盛んな林業を体験するなど地域の魅力に触れている。こうした記憶は、心のどこかに残るはず。将来さまざまな場面で活躍する卒業生が増えたら、いつか地域と関わりを持ってくれる人も出てくるんじゃないか。すぐには形にならないかもしれないけれど、種をまき続けるんです」(分校魅力化推進室) 住民と距離が近い学校で送った3年間。松山市の大学に進学する女子生徒(18)は先生たちの思いに応えるように、温かい思い出をこんな風に振り返った。「人数が少ないから、生徒一人一人を大切にしてくれた。学校が終われば住民の方が『お帰り』と声をかけてくれる。そんな地域を、忘れるわけがないじゃないですか」
愛媛新聞社