「他空港でも力発揮したい」特集・三菱地所と空港民営化(1)
日本での空港民営化が2016年に始まり、8年が過ぎた。新路線の誘致やサービス向上、ターミナル内にある商業施設の活性化など、さまざまな成果を期待されて始まり、特に新路線の開拓やにぎわい創出といった分野では成果がみられるようになってきた。 【写真】4月に開業した下地島空港のビジネスジェット用ターミナル 民営化には様々な企業が参画しており、必ずしも過去に航空業界と密接な関わりがあった企業ばかりではない。2018年4月1日に国管理空港として2番目に民営化された高松空港は、三菱地所が主体となって事業を進めており、その後は静岡空港、下地島空港と運営に携わる空港を拡大。このほかに、新千歳空港をはじめとする北海道7空港を運営する北海道エアポートにも出資している。 新型コロナでは各地の空港運営会社も大きな打撃を受けたが、デベロッパーが空港運営に携わるメリットはどこにあるのだろうか。そして、そもそも空港民営化は参入したデベロッパー側からはどう見えているのだろうか。グループ初の空港運営となる高松民営化から6年が経過し、コロナからの回復期に入った今、空港運営にデベロッパーが携わる意義や今後の事業について、三菱地所の伊東隆行・空港事業部長に聞いた。 ◆土日はシャッター通りだった丸の内 三菱地所は「丸の内の大家」と言われるほど、丸の内や大手町、有楽町の不動産に強い。とりわけ象徴的な丸の内ビルディング(丸ビル)は2002年に立て替えられ、オフィスビルとしてだけでなく、東京駅の目の前にある商業施設としても注目されるようになった。 「土日はシャッター通りだった」と伊東部長が指摘するように、丸ビルのリニューアル後、丸の内は平日のオフィス街としての機能に加えて、週末に人が集まるエリアに変貌した。まちづくりと空港運営に共通する点として「関係者が多いこと」を挙げ、「一緒に新しい空港を作っていくとなると、まだまだやれることがいっぱいある」という。 三菱地所としての空港運営で力を入れているのは、まちづくりや地元への貢献につなげられることだといい、「代表例は宮古島。下地島空港の運営をスタートする時点から、リゾート地としてのポテンシャルがある宮古を国内外に知っていただきたい。空港だけを見ているのではなく、ホテル開発なども視野に入っている」と、地域全体を活性化させる視点が重要だという。 一方で、静岡空港は「世界から見て富士山の存在は大きい。ビジネス利用は限定的な空港だが、富士山に限らず(三菱地所が開発した)アウトレットやゴルフ場、富士スピードウェイもある」と、グループで手掛ける施設も周辺にある。また、コロナの影響下では地元の大井川鉄道との連携なども始まり、独自コンテンツを持つ地元企業と組むことで、これまでとは違った旅行商品づくりにも携わっている。 三菱地所として初の空港運営となった高松空港は、「四国のゲートウェイで、この立地はいいよね、という話になった。関西にも中四国を訪れるにも良い場所。高松はアートにも力を入れており、海外からも観光客が訪れている」という。 ◆「テナントは民間的な会話求めていたのでは」 かつて国土交通省航空局(JCAB)の幹部に、空港民営化の狙いを聞いたところ「役人の発想には限界がある」と自嘲ぎみの答えが返ってきた。大手デベロッパーが空港運営に参画する強みはどういった点にあるのだろうか。 伊東部長自身は、住宅やマンションを手掛けた後、オフィスビルやホテル、商業施設のマネジメントを経験。本社の経営企画部時代には、空港事業部から提案される事業計画に対し、リスク評価など会社として判断する立場にいた。 「まずはそもそもの(空港運営の)仕組みがどうなっているかなど、本当に勉強するところから始まった」と振り返る伊東部長は、三菱地所が空港運営に携わる強みとして、ビルや商業施設などの管理経験があると話す。三菱地所のオフィスビルは、主にグループ会社の三菱地所プロパティマネジメントが担っており、ターミナルビルの管理も同社の知見を生かしているという。 そして、民間の視点で考えるとテナントの関係性もあると指摘する。「テナントさんからすれば、ビルを管理している会社と話をする、という感覚の方が自然だと思う。それが今までは『こういう規程だからできない』みたいなところで終わってしまうこともあり、テナントさんとしてはもっと民間的な会話を求められていたのではないか」と、ターミナルビルに入るテナントは、街中の商業施設のような交渉を民営化前から空港側に望んでいたのではないか、と察する。 丸ビルのリニューアルで、丸の内がオフィス街から商業エリアとしての顔も併せ持つように変貌を遂げたことと、空港民営化には共通点があると伊東部長は指摘する。「まちづくりと共通するのは関係者が多く、信頼関係を築くことが重要。地元や航空局、空港で働くさまざまな会社のスタッフの方たちと、一緒に新しい空港を作っていくというのは共通したところがある」といい、民間企業として行政とは異なる切り口で運営を心掛けてきたという。 また、これまでは行政が特定の企業と調整するとなると、立場的に難しくなることが多かったのに対し、民間企業として空港運営会社が間に入ることで、空港に新たな風を吹き込むこともできるようになった。 ◆「他空港でも力発揮したい」 2020年からの新型コロナの影響は、各地の空港で経営面で大きな打撃となった。伊東部長は「足腰の強い体制や関係者との絆という基盤を維持できたことや、共通の危機感を共有できたことは、ある意味でプラスだったかもしれない。これらを経て、多くの関係者の方々と協業していかなければいけない」と振り返る。 リゾートとして開発を進める宮古島についても「まだ全然完成しているわけではない」と、今後は下地島空港とホテルを結ぶアクセス向上などを、地元の公共交通機関と連携することで、新たな価値を提供していきたいという。 また、持株比率15.00%と、北海道空港(20.60%)に次ぐ第2位株主である北海道エアポートでの経験は、特に新千歳空港の運営などを他空港へ展開できると伊東部長は指摘する。「あれだけの商業施設を自ら運営する立場になると、そこで学ぶことは多い。高松や静岡、下地島に(ノウハウなどを)移植していくということはできると思う」。 「今後、ほかの空港でも力を発揮したいと思うし、それによって地元などに貢献していきたい」と、国内での空港運営事業の拡大に意欲を示した。 では、海外の空港運営は可能性があるのだろうか。伊東部長は「具体的な計画があるわけではない」と断った上で、欧米や東南アジア、中国を含む東アジア、豪州と、三菱地所が都市開発に携わる地域であれば、開発プロジェクトと連携する形で海外の空港運営も可能性は出てくるという。 大手不動産デベロッパーという、非航空系企業が参入した空港民営化。しかし、単に路線が増えてターミナルの商業施設をテコ入れしてにぎわいが創出されれば良いというものではなく、空港を中核とする地域の活性化が重要だ。三菱地所はまちづくりの経験を活かし、これまでのオフィスビルや商業施設運営で得たノウハウの活用や、公共性を重視した運営を行っていくとしており、空港を核とした地域活性化は、コロナ後の地方都市にとって重要なテーマになっていくだろう。
Tadayuki YOSHIKAWA