「ロシアゲート」疑惑で新展開はあるのか? トランプ大統領の側近起訴
昨年の米大統領選におけるトランプ陣営とロシア政府との結びつきをめぐる、いわゆる「ロシアゲート」疑惑の解明を進めている元FBI長官のロバート・ムラー特別検察官率いる捜査チームは先月30日、昨年の大統領選でトランプ陣営の選対本部長を務めたポール・マナフォート氏ら2人を起訴したと発表した。ムラー氏は5月に、ロッド・ローゼンスタイン司法副長官によってロシアゲートに関する捜査を行う特別検察官に任命され、FBIの特別捜査チームを率いることになったが、実際にトランプ陣営関係者を起訴したのは今回が初めてのケースとなる。今回の起訴と、その数か月前に偽証罪で逮捕されていたトランプ陣営の外交アドバイザーの存在は、支持率低迷から抜け出せないトランプ大統領にとって大きな打撃となりそうだ。 【写真】ウォーターゲート事件との類似性も トランプ大統領がFBI長官を突然の解任
起訴されたマナフォートとゲイツとはどのような人物?
昨年の大統領選挙時から浮上していた「ロシアゲート」。あらためて簡単に説明しておくと、米大統領選においてロシア政府が何らかの形でトランプ陣営を支援し、それがトランプ陣営の合意の下で行われていたのかではないかという疑惑だ。つまり、ロシアによる米大統領選挙への関与の有無が、FBIによる捜査対象になっているのだ。大統領選挙介入に加えて、トランプ・ファミリーがロシアをはじめとした旧ソ連諸国で展開するビジネスが利益相反になる可能性、トランプ大統領が5月に当時のFBI長官であったジェームズ・コミー氏を解任した件も、ロシアゲートの一部ではないかと考えられている。コミー氏は6月に上院情報委員会で証言を行い、解任はトランプ陣営とロシア政府との癒着について司法省やFBIが進めていた捜査を阻害することが目的であったとの見解を示している。 先月30日に起訴されたのは、昨年の大統領選でトランプ陣営の選対本部長を務めていたポール・マナフォート被告と、彼の知人でありワシントンでロビイストとして活動していたリック・ゲイツ被告の2人。起訴されたマナフォート、ゲイツの両被告には自宅軟禁が科され、海外逃亡を阻止するためにパスポートも返納させられている。二人に対する裁判は来年5月7日に開始され、判決が下されるまでに最長で3週間ほどかかると見られている。無罪を主張する2人だが、外国組織の代理人を「未登録」の状態で行っていたことや、マネーロンダリングなど、合計で12の罪状で起訴されている。 両被告が起訴されることになった12件の罪状は、昨年の大統領選において、両被告を含むトランプ陣営関係者がロシア政府と接触していたことを示すものではなく、2006年からウクライナの親ロシア派政党やヴィクトル・ヤヌコビッチ氏の代理人として活動していたことや(ウクライナの元大統領で、2014年初めに拡大したウクライナ騒乱によって、その年の2月に首都のキエフから逃亡。同じ日にウクライナの国会によって大統領解任が決議され、元保安庁長官のトゥルチノフ氏が4カ月にわたって大統領代行を務めた)、代理人業で得た報酬を資金洗浄して隠し持っていたという内容のものであった。 マナフォート被告とウクライナの親ロシア派勢力との繋がりは以前から指摘されていた。ウクライナの政党を含む外国政府や政党とのロビイストとしての付き合いが問題視される中で、マナフォートは昨年8月にトランプ陣営の選対本部長を辞任しているが、米NBCは昨年10月、複数の情報機関関係者の話として、FBIがマナフォートに対する予備捜査を進めていると伝えている。NBCは昨年8月にも、マナフォートとロシアやウクライナのオルガリヒ(新興財閥)との関係について報じており、マナフォートが数百万ドル規模の取引を行っていたオルガリヒの一部には組織犯罪との関係が取りざたされている人物もいる。その人物はプーチン大統領の側近とも非常に親しい関係にあるとNBCは伝えていた。 トランプ陣営の選対本部長として、その名が知れ渡っていたマナフォート被告と比べると、ゲイツ被告に関する情報は少ない。ニューヨーク・タイムズ紙は6月にマナフォートの「右腕」として活動するゲイツの人物像について報じており、ゲイツは学生時代にワシントンでマナフォートやロジャー・ストーン氏(トランプ大統領の長年の友人で、歴代の共和党大統領候補に重宝されてきた政治コンサルタント)らが共同で設立したコンサル会社でインターンシップを経験。以来、20年以上にわたってマナフォートと仕事上での関係を維持していた。昨年の大統領選挙ではトランプ陣営のメンバーとして活動し、トランプ氏がヒラリー・クリントン氏に勝利すると、「トランプ大統領就任式準備委員会」のメンバーとして資金集めに奔走した。 マナフォート、ゲイツ両被告に対する罪状は、「ロシアゲート」に直接関係するものではないという見方も強いが、2人を起訴して裁判にかけることによって、ムラー特別検察官のチームが司法取引も視野に入れた捜査協力を得られる可能性が浮上している。