「ロシアゲート」疑惑で新展開はあるのか? トランプ大統領の側近起訴
「土曜日の夜の虐殺」再び? ムラー特別検察官の解任はあるか
前述の2被告に対する起訴が発表されてから間もなくして、司法省は昨年の大統領選挙で外交顧問を務めていたジョージ・パパドプーロス被告を、FBIの捜査に対する偽証罪で起訴したことも明らかにした。「ロシアゲート」で名前が挙がった人物の中では最年少となる現在30歳のパパドプーロスは、ワシントンのシンクタンクで無給インターンとして働いたのち、トランプ陣営に加わった。昨年、「ヒラリー・クリントンに政治的なダメージを与えることのできるメール記録などを持つ、ロシア政府の関係者を個人的に知っている」とイギリス在住のマルタ人大学教授から話を持ち掛けられ、昨年3月から4月にかけて何度か会談を行っていた。FBI捜査員の質問に対し、「マルタ人教授と接触していた時期は、トランプ陣営の外交顧問になる前だった」と嘘をついたパパドプーロス被告は7月に逮捕されたが、ニューヨーク・タイムズ紙は先月30日に「逮捕後にパパドプーロス被告は、情報提供者として、ムラー陣営に捜査協力していた」と報じている。 アジア歴訪を開始したトランプ大統領にとって、「ロシアゲート」に関連して周辺の人物が次々と起訴される現状は非常に頭の痛い問題だ。トランプ大統領は先月31日、起訴されたパパドプーロス被告を「下っ端の嘘つき」とツイッターで非難したが、パパドプーロス以外の2人が捜査協力に応じたり、新たな人物が起訴される可能性もゼロではない。アメリカの複数のメディアは先月31日、ホワイトハウス広報部長のホープ・ヒックス氏が今月中旬にムラー特別検察官のチームから事情聴取されると伝えた。トランプ大統領のアジア歴訪終了後に事情聴取が行われる模様だ。ムラー特別検察官率いる捜査チームによる積極的な動きに注目が集まる中、懸念されるのがムラー氏解任というシナリオだ。似たような話はニクソン政権の1970年代にあった。 当時、ウォーターゲート事件の調査を行っていたアーチボルド・コックス特別検察官は、ニクソン大統領が大統領執務室で極秘に訪問者との会話を録音していた事実が議会の調査委員会で明らかになると、8本のテープを証拠品として提出するように大統領側に求めた。しかし、大統領は特別検察官のリクエストを拒否。リチャードソン司法長官とラッケルハウズ司法副長官にコックス特別検察官の解任を求めたが、2人はニクソン大統領の申し出を拒否した(コックス氏の任命前に2人は捜査に干渉しないという宣誓を行っていた)。 コックス特別検察官の任命・罷免権は、司法長官にあったため、ニクソン大統領は1973年5月に司法長官に就任したばかりのリチャードソン氏に圧力をかけ続けた。同年10月20日、リチャードソン司法長官は就任から5か月で辞任を表明。ラッケルハウズ司法副長官もニクソン大統領によって辞任に追い込まれ、その日の夜にニクソン大統領は別の人物を司法長官代理に任命。その司法長官代理によってコックス特別検察官は解任される。10月20日が土曜日であったため、司法長官の辞任や特別検察官の解任は「土曜日の夜の虐殺」と呼ばれ、ニクソン大統領の弾劾に向けての動きを加速させるターニングポイントとなった。 NBCニュースが先月29日に発表した最新の支持率調査では、トランプ大統領の支持率はこれまでよりもポイントを下げ、38パーセントにまで低下した。「ロシアゲート」では四面楚歌ともいえる状態に直面しているトランプ大統領だが、問題から国民の目をそらす目的で北朝鮮に対する強硬策というカードを用いるのか、それともムラー氏を解任するのか。トランプ大統領の周辺がこれまで以上に慌ただしくなってきたことだけは間違いない。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト