「子どもたちに罪はないのに」待ちに待った在留資格、一転して出してもらえず…クルド家族に厳しい現実
●母親だけビザが出ず落胆する一家
同じくトルコ国籍のクルド人、アルペルくん(中学3年)の父親は、正規のビザがあり日本で飲食店や解体業などの事業を起こしていた。 母親とアルペル君は父親のあとを追って日本にやって来たが、入国の際、両親が入籍していなかったことで夫婦と認められず、入国拒否されて、1日だけ空港に留め置かれた。 パスポートに不備があったなど、落ち度はなかった。しかし、それだけが理由となって、結局、母親にビザが出なかった。 空港から解放されたあとすぐ入籍して、弟と妹が日本で生まれた。アルペルくんも弟妹もずっと仮放免の生活で、自分たちの境遇に納得できない思いがあった。 入管から今年7月、母親と子ども3人が呼び出された。母親は「ビザが出るだろう」と確信。子どもたちをサプライズで喜ばせようと、入管に着くまで秘密にしていた。ところがいざとなると母親だけ出ないことを告げられ、激しく落胆した。 子どもたちはなぜ母にだけビザがでないのかと激しく抗議し、弟は泣き出してしまった。職員には「これは子どものためのビザです。(母親は)難民申請の結果を待つしかない」と言われた。家族全員にビザが出なければ意味がないと懸命に食い下がったが、それが覆ることはなかった。 「お母さんがいつもご飯を作ってくれる。朝、服も用意してくれる。僕たちはお母さんがいなければ何もできない。家族一つで暮らしていきたい。お母さんにもビザが出るためなら何だってやりたい」 現在は受験生で、サッカーの強豪高校を目指し塾にも通っているアルペルくん。勉強の傍ら、積極的にロビイング活動も続けている。
●「子どもたちに罪はない」「誰の利益にもならない」
元入管職員の木下洋一氏は、筆者の取材に対して、空港で上陸拒否される理由について「難民申請をしそうな者をあらかじめ入国させたくないという入管の心理が根底にある」と回答した。 「元法務大臣の判断は評価している。今までにはこういう事例はなく、それにより救われた家族もいるだろう。今回のことで選ばれなかった子どものことは入管としてはこれからも個別に判断していく考えだろう。しかし、その基準が曖昧なのは当事者として辛いところなのは理解できる。 自分の意思でここにいるわけではない子どもたちに罪はない。子どもたちを長期にわたって不安定な状態に置くことは誰の利益にもならない。また、たとえ難民でないとしても、日本で成長した彼ら彼女らに『帰国』を強要するのも現実的ではない。 場合によっては、家族と切り離して判断することもあるにせよ、判断基準をより明確にして、一刻も早く子どもたち(すでに成人となった人たちを含む)への救済を願いたい」 在留特別許可の方針発表から1年を過ぎた今も、出ないかもしれないビザを待ち続けている子どもたちがいる。残された彼・彼女たちのために政府は今後どう動いていくのか、注視していきたい。