ビニールタッキーの「月刊おもしろ映画宣伝」2024年9月号
映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。 【動画】藤岡ファミリー「デッドプール▽俺ちゃんストア」プレビュー来店映像(他3件) 9月は「モンキーマン」「テリファー 聖夜の悪夢」「犯罪都市 PUNISHMENT」「ビートルジュース ビートルジュース」「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版」「ヴェノム:ザ・ラストダンス」「エイリアン:ロムルス」にまつわる宣伝をピックアップ。今月は特に、出演者や企画側から作品への愛情、そして理解度を感じる宣伝が多かったという。記事末ではMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)も発表している。 文 / ビニールタッキー 「月刊おもしろ映画宣伝」9月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう! ■ 「モンキーマン」 “このたび公開されたのは、猿のマスクを被った主人公が描かれたイラスト。原田は、映画の雰囲気に加えて“日本っぽさ”“私のイラストらしさ”も意識したといい、「日本のコミックで「モンキーマン」があったらこんな雰囲気の表紙がいいなと思いながらワクワクする雰囲気で描かせていただきました」と述べた。” おおおこれはカッコいい! ポップな色使いと力強いタッチが、あのカラフルでパワフルな「モンキーマン」の世界観と合っていますね。とても印象に残る良いコラボイラストだと思いました。 ■ 「テリファー 聖夜の悪夢」 “全米公開時に嘔吐・失神者が続出したホラー映画の続編となる「Terrifier 3」が、「テリファー 聖夜の悪夢」の邦題で11月29日の“いい肉の日”に東京・TOHOシネマズ 新宿ほか全国で公開される。” まさかのいい肉の日(11月29日)にスプラッターホラーの「テリファー」3作目が公開! なんとも覚えやすくて助かる公開日設定です。しかもこの映画、今回はクリスマスが舞台ということなんですが、海外ではハロウィンシーズンに公開される一方で日本ではちょうどクリスマスシーズン直前から公開が始まるということで奇しくも時期的にぴったりという奇跡が起きています。これは観に行くしかありませんね!(ちなみに前2作は両方ともR18+指定作品です)この情報の解禁日がちょうど9月の13日の金曜日というのもホラージャンルへのリスペクトが厚い! ■ 「犯罪都市 PUNISHMENT」 “「犯罪都市」シリーズのファンであるMC・宇垣美里から「韓国ではシリーズ累計動員数が4000万人を突破しましたが、改めて「犯罪都市」が観客を魅了する理由はどこにあると思われますか?」と尋ねられたマ・ドンソクは「シリーズを手がけるときには、いつも楽しく良質なエンタメ作品を作ろうと努力をしています。まずはいいストーリー、ユーモア、そして強烈なアクションを皆さんにお見せしたいと思っているんです」と真摯に答える。” 「犯罪都市」シリーズとマ・ドンソクの大ファンであることを以前から公言している宇垣美里さんがMCという時点でこのイベントは非常に高得点です。質問内容も「シリーズ過去3作を含め、20年以上アクション監督として活躍されてきたホ・ミョンヘンさんに今回演出をオファーした理由は?」「『犯罪都市』がほかのアクション映画と異なる点は?」などファンが本当に聞きたい質問が多く、それに真摯に答えてくれるマ・ドンソク、という感じでとても良いイベントだったと思います。巨大な映画のスクリーンに映る巨大なマ・ドンソクという画もとても良かったです。 “マ・ドンソク主演映画「犯罪都市 PUNISHMENT」が、オンラインクレーンゲームサービスのセガUFOキャッチャーオンラインと期間限定でコラボ。1日1回無料で遊べるデイリーチャレンジ台と、特別なシリアルコードの入力によって解放される通常運営台が登場する。 通常運営台では、景品としてマ・ドンソクのアクリルスタンドが先着100個用意された。” マ・ドンソクのアクリルスタンド! まさにアイドル的人気を象徴するようなグッズです。公式アカウントによるとあっという間に品切れになってしまったそうで大人気っぷりが伺えます。ぜひ景品だけではなく販売もお願いします! ■ 「ビートルジュース ビートルジュース」 “友近は受付嬢、山本はクリーニング屋を自身のコントで演じていたことから今回のキャスティングが決まったという。先日発表されたメインキャストがキャラクターに扮装している“全身吹替”のビジュアルが話題を集めたのに続き、2人は“芸歴吹替声優”としてこのたびお披露目された。” 「ビートルジュース ビートルジュース」は声優さんたちが特殊メイクで扮装した「全身吹替」が話題となりましたが、さらに「芸歴吹替」というカテゴリが追加されました。「コントで演じたことがあるキャラクターにちなんだ吹替」という新たなカテゴリを生み出すあたりが妙案だと感じました。しかしなんの脈絡もなく起用されるよりは技アリと感じてしまうのでいい戦略だと思います。 “西川のりおが、本日9月27日(金)公開のティム・バートン監督最新作「ビートルジュース ビートルジュース」で吹替声優を務めていることが発表された。西川は1988年に公開された前作「ビートルジュース」でビートルジュース役の日本語吹替を担当。台本にはないセリフや自身のギャグ「ツッタカター」を入れるなど話題を集めた。このたび“蘇り声優”として続編となる今作に参加している。” 「全身吹替」「芸歴吹替」に続いて「蘇り声優」! もはやなんでもあり! しかし1作目の「ビートルジュース」に吹替で参加した西川のりおさんに再びゲスト声優としてオファーするのはリスペクトが込められていると感じました。特別動画も観ましたが西川のりおさんのビートルジュースに対する愛情や、相変わらずしゃべりまくりギャグ飛ばしまくりな感じが楽しくて最高です。 “「ファンタ ビートルジュース」は“あの世のおいしさ”を表現したもの。液体のカラーはネオンイエローで、ボトルには不敵な笑みを浮かべるビートルジュースがあしらわれている。” 「ビートルジュース」のジュース! こういうダジャレ一点突破みたいなPRが大好きなんです。不気味な怖がらせ屋のビートルジュースがモチーフのドリンクということで色もネオンイエローとまったく油断のできない色で最高です。 ■ 「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版」「ヴェノム:ザ・ラストダンス」 “「最凶相棒秋祭2024」と題されたこのコラボレート。幽霊族の末裔である鬼太郎の父と人間の水木、地球外生命体と人間のエディが一体になったヴェノム、両作にはそれぞれ“ニンゲン”ではない相棒が登場するバディものであるという共通点がある。また、「ヴェノム:ザ・ラストダンス」ではヴェノムの故郷にいるシンビオートたちの存在や謎、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版」では鬼太郎の父たちの物語が初めて明かされ、“今まで明かされてこなかった秘密”が描かれる点も共通している。コラボ動画には、木内と諏訪部の「俺たちの相棒はニンゲンじゃない」というナレーションが収められた。コラボ映像のフルバージョンは全国の映画館で上映されている。” 「最凶相棒秋祭2024」! なんとも味わい深い響きの言葉です。確かに「バディもの」は映画の1ジャンルとしてとても愛されていて年に何本も作られていますが、「ニンゲンではない相棒が登場するバディもの」という点に着目して「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版」と「ヴェノム:ザ・ラストダンス」を組み合わせるという発想が素晴らしい。しかも2作ともバディの深い関係性からコアな人気を誇る映画ということで発案者の人、よくわかってるなと感心しました。 また、このコラボ映像のフルバージョンが映画館でしか観れないというのも特別感があって良いと思いました。さらに、このPRが公式に発表される数日前から既に映画館で流れていたので、目撃した人たちがSNSで「あれは何?」「すごいものを観た」「何も情報が出てないけど本当に観たんだ!」と語るうちに口コミで広まっていくような現象がありました。もし戦略だとしたら相当うまいな、と思いました。 そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今月は大きく話題になった宣伝があったので皆さんも予想が付くのではないでしょうか…というわけで今回はこちらです! ■ 「エイリアン:ロムルス」 “「エイリアン」トークが白熱する中、急遽会場が暗転してサイレンが鳴り響くとおぞましい姿の「エイリアン」“最終形態”が劇場に襲来。観客たちを脅かし、カズレーザーも驚きのあまり腰を抜かしてみせた。精巧な特殊メイクの「エイリアン」はスタッフからマイクを渡されると、初めは不気味な息遣いのみでしゃべれなかったものの、徐々に人間の言葉を話せるようになり、やがて自ら「研ナオコです!」と正体を明かす。” これまでさまざまな映画キャラクターの扮装を極めて高いクオリティで(誰からも頼まれていないのに率先して)行ってきた研ナオコさんがエイリアン(ゼノモーフ)の姿で登場。そのまったく予想できない正体と、やはり極めて精巧な特殊メイクに驚くばかりです。 “研は「やりたかったの! エイリアン好きなんですよ!」とご機嫌な様子。カズレーザーは「本物の「エイリアン」を観たことがある人は誰もいないはずなのに、なぜか違和感が一切ないのがすごい。すべてのパーツにどこか意味がありそう。怖すぎてカッコいいみたいな」とその造形美に言及した。” いや、本当にその通りで、見れば見るほど怖いし、カッコいいし、少し笑える感じも含んでいるのがすごいと感心しました。単なる着ぐるみではなく極めて精巧かつ緻密な特殊メイクを駆使して本気で成り切っている感じ、そして研ナオコさんの「やりたかったの! エイリアン好きなんですよ!」という言葉に映画ファンとしてうれしい気持ちになります。ちなみに「エイリアン:ロムルス」を実際に観たのですが、本編のエイリアンよりも研ナオコさんのエイリアンの方がよっぽど怖かったし夢に出そうだと感じました。(※個人の感想です) 今月の宣伝を見ていて感じたのは"映画に対する愛情"でした。例えば「犯罪都市 PUNISHMENT」の宇垣美里さん、「ビートルジュース ビートルジュース」の西川のりおさん、「エイリアン:ロムルス」の研ナオコさんなど、皆さんの映画に対する愛情が感じられてとてもうれしい気持ちになりました。さらに言えば「テリファー 聖夜の悪夢」の公開日設定や「最凶相棒秋祭2024」についても作品に対する深い理解度と愛情があってこそ発案できたコラボだと思います。映画宣伝は、当然多くの人の注目を集めることや集客を増やすことが最重要課題ですが、このように映画宣伝に関わる人たちの愛情を感じると、自然とその映画を応援したくなる、観たくなる気持ちが湧いてきます。暑くて騒がしかった夏も終わりかけ、秋の忍び寄る気配に涼しさと寂しさを感じる昨今、こういう愛情を感じると心が暖かくなりますね。 以上、月刊おもしろ映画宣伝2024年9月号でした。次回もお楽しみに! ■ ビニールタッキー 映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。 ビニールタッキー(@vinyl_tackey) | X 第9惑星ビニル (c) 2024 Warner Bros. 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