阪元裕吾監督の強みは“会話劇”と“感情の高ぶり” 『ネムルバカ』はこれ以上ない適材適所に
原作者・石黒正数と阪元裕吾監督の相性
『ネムルバカ』の原作者である石黒正数は、ほかにも『それでも町は廻っている』や『天国大魔境』で知られ、日常パートとストーリー展開の両面で高い評価を受けている漫画家だ。その作品世界と阪元監督の演出スタイルの相性について、加藤氏はこう語る。 「石黒さんの漫画は、ストーリーテリングがすごく上手いんです。伏線を張ったり、物語を盛り上げたりする構成力が素晴らしい。『ネムルバカ』もただのゆるい日常ものではなく、原作の1ページ目から読者の心を掴む謎めいた一文で始まり、最後にはその意味が分かるようになっています」 実写映画では平が演じる、“先輩”こと鯨井ルカは、音楽に打ち込むロックなキャラクター。音楽への情熱とは裏腹に、超えられない才能の壁といったシビアな要素も原作では描かれる。加藤氏は、だからこそ阪元監督が起用されたのではと考える。 「阪元監督は、『ベイビーわるきゅーれ』から一貫して、切ない話を書くのが得意なんです。コミカルな場面がある一方で、普通に人も死ぬし、ハードボイルドな要素もあります。そういった意味でも、今回の『ネムルバカ』は観終わった後に少し切ない気持ちにさせてくれるような青春映画になるんじゃないでしょうか」
阪元裕吾監督の作風の変遷と一貫性
『ベイビーわるきゅーれ』のフランチャイズ化を経て、阪元監督の作風にも少なからず変化が見られる。しかし、その本質は変わっていないと加藤氏は指摘する。 「『ベイビーわるきゅーれ』以降、会話劇により重きを置くようになったのは確かですね。ただ、昔からコメディ要素を大事にしている人なんです。2019年に公開された『最強殺し屋伝説国岡』でもアクション映画としての完成度を追求しつつ、会話の中にクスッと笑わせるユーモアがちりばめられていました。その上で、ストーリーとしての面白さがどんどん洗練されていっている印象なので、『ネムルバカ』でもさらに進化した阪元監督が観られることに期待しています」 出会うべくして出会ったと言える、石黒正数と阪元裕吾。初共演となる久保と平の化学反応にも注目しながら、彼らの紡ぐ愛おしいモラトリアムに浸りたい。
花沢香里奈