箱根駅伝Stories/中大・吉居駿恭 トラック・全日本と壁を乗り越え「結果を出して、恩を箱根で返したい」
失敗から学び、そして努力を
ここまで結果が出せなかった経験は、はじめてと言っても過言ではない。宮城・仙台育英高時代からトラックでも記録を伸ばし、高校駅伝は1年時に優勝を経験。2、3年時は1区を走ってメダルを獲得するなど、毎年結果を残してきた。 中大に進学後も、1、2年と連続して三大駅伝を走ってきたし、トラックでも自己新を出し続けてきた。しかし、ここに来て記録が止まっただけではなく、ロードでも結果が出せなくなってしまった。 その要因は、ハッキリしていた。1年時も2年時も、とにかく必死で走ってきた。レースで不安を感じる余裕すらないほど、何も考えず、とにかく目の前の練習に取り組み、走るだけだった。それで記録が伸びていたが、3年になってパリに向けて何をクリアしなければならないのかが明確になった。ただ走るだけでは強くなれない、結果が残せないことを知ったのである。 「結構考え込んでしまうタイプ」と自分を評する吉居は、この1年間、考え込み続けてきた。練習は間違っていないし、確実にこなせているはずなのに、なぜか結果が出せない。ひたすら考え抜いた結果、一つひとつ、不調の原因を追い求めていく。 やみくもにたくさん大会に出場するよりも、出場レースを絞るほうが自分に合っている。春先の質を追い求めたトレーニングから距離を踏む練習へと切り替えたことで、スピードから持久系への走りへの動きの変化に身体が対応できていなかったことに気づいた。 全日本の失敗からは、単純に距離を踏むだけではなく、レースを想定しながらトレーニングをしなければロードでは走れないことを学んだ。その学び、そして積み重ねた努力がようやく実を結ぶ。11月23日、MARCH対抗戦2024に出場した吉居は、10000mで中大記録となる27分44秒48を叩き出したのである。 「自分を支えてくれたり携わってくれたりした人たちに良い姿を見せられるというか、喜んでもらえる舞台が箱根だと思います。今シーズン、調子が悪いなかでもたくさんの人たちが応援してくれましたし、藤原監督もすごく支えてくれました。箱根の予選会も、チームのみんなが力を合わせて突破してくれました。次は、僕の番。選手として結果を出して、たくさんいろいろなものをいただいた恩をしっかり箱根で返したいと思います」 大きな壁を乗り越えた吉居。伝統ある深紅のタスキを携えた『エース』としての箱根がいよいよ始まる。 よしい・しゅんすけ/2003年4月8日生まれ。愛知県田原市出身。愛知・田原東部中→宮城・仙台育英高。5000m13分22秒01、10000m27分44秒48、ハーフ1時間3分45秒
田坂友暁/月刊陸上競技