爆増する毒グモから逃げろ!『スパイダー/増殖』PRESS HORROR試写会で研究者が魅力を力説
スティーヴン・キングやサム・ライミといったホラー界の大御所たちが称賛した、フランス発のモンスターパニックホラー『スパイダー/増殖』(11月1日公開)。本作のPRESS HORROR試写会が10月21日に開催され、上映後のトークイベントにフランス文化研究者で作家の陣野俊史と映画ライターの山崎圭司が登壇した。 【写真を見る】PRESS HORROR試写会でトークイベントが開催!「開放的な後味」 スニーカーの転売で稼ぎながらパリ郊外の団地で暮らす、エキゾチックアニマル愛好家のカレブ(テオ・クリスティーヌ)はある日、珍しい毒グモを入手。ある時、同じアパートに住むトゥマニがカレブからスニーカーを受け取った直後に原因不明の死を遂げる。警察は謎のウィルスが発生していると判断し、建物は封鎖。住民たちは閉じ込められてしまう。そんななか、カレブの毒グモが脱走し、猛スピードで繁殖をはじめていた。 フランスのヒップホップやバンリュー(移民)映画に詳しい陣野はすっかり本作に魅了されたようで、「クモがクモに見えなかった。移民のメタファーだと思って観ました」と興奮気味に語り、すでに本編を3回観たことを告白。さらに本作がフランス国内で過去20年のフレンチホラーNo. 1のヒットを記録した理由として、モンスターパニックの奥に社会的なテーマが込められていることに言及。 「移民規制に抵抗している映画としても見ることができます」と語る陣野は、劇中にバンリュー映画の名作であるマチュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』(95)のオマージュシーンがあることに触れると、バンリュー映画の魅力を熱弁。山崎からは「陣野さんは『憎しみ』のDVDをバッグに入れて持ち歩いてるんです」というタレコミも。 また陣野は、本作にヒップホップの最新鋭の曲調のひとつである重低音が特徴的な“ドリル”が多用されていることにも触れ、「フランスのヒップホップグループのSupreme NTMが1995年に発表した『Qu'est-ce qu'on attend』のように、フランスのヒップホップには移民と対立する警察を罵倒する歌詞も見られ、本作で主人公たちが警察に守ってもらえないことにもつながっている」とも語った。 一方、ホラー映画に造詣の深い山崎は「フランス人はアメリカナイズされた映画を嫌う傾向があるが、本作はワールドワイドにアピールしながらフランスの味がある。フレンチホラーは後味がビターなものが多い気がしますが、本作は開放的な後味です」と絶賛した。 第56回シッチェス・ファンタスティック映画祭で審査員賞を受賞し、フランスのアカデミー賞として知られる第49回セザール賞では最優秀新人監督賞と最優秀視覚効果賞にノミネートされるなど、大ヒットのみならず高評価を集めた本作。メガホンをとった1989年生まれのセヴァスチャン・ヴァニセック監督は、ライミからオファーを受け「死霊のはらわた」シリーズのスピンオフ作品の共同脚本兼監督に決定する大出世。今後のホラー界を盛り上げてくれること間違いなしの新鋭が放つ衝撃のデビュー作を、是非とも劇場で目撃あれ。 文/久保田和馬