すべての方に届くように(10月20日)
視覚や聴覚に障がいのある方にも、俳優たちが演じる熱と空気感を共有する舞台公演の魅力を楽しんでいただきたいというのが、演劇に携わる者たちの願いである。 様々な工夫をした舞台を「バリアフリー演劇」として、先日、白河文化交流館コミネスで開催した。回を重ね演目も変えながら、今年は4回目となった。 毎回、「バリアフリー演劇」に取り組むそれぞれの劇団の専門スタッフの作業から、劇場側も多くのことを学ばせていただく。 視覚障がいの方のために、開演前に舞台装置説明の時間を設け「向かって右側に大きな扉、そして中央には4人用のテーブルがあります」というような舞台装置の説明をしたり、上演中にも「怒ったようにドアから出ていきました」というような俳優の動きをイヤホンなどで伝えたり、また、そもそもの芝居の台本の中にすでに情景説明をセリフとして組み込んだ作品もある。また、終演後に、舞台に上がって、実際の装置に触れていただくという企画は、毎回多くの好評の声をいただく。
聴覚障がいの方のためには、プロジェクターによる字幕投影や、手元のタブレットなどにセリフの文字を出す場合や、手話通訳の方が舞台の端に常にいるという方法が取られる。さらには、俳優の動きと手話通訳の視点分散を避けるために、それぞれの俳優と一心同体で手話通訳の方が共に動き回るという舞台もあり、二人で一役を創り上げているような新たな演劇のかたちを模索するようでもあった。 舞台への集中力を損なうことなく、ライブである舞台の魅力を伝える方法がないかと試行錯誤を重ねているのが、多くの公演の現状であると思う。 また一方、先日、新国立劇場演劇研修所の俳優の卵たちと共に、公立の盲学校の小学生たちを訪ねるアウトリーチの機会があった。こちらも、コロナ感染対策のための数年を除いて、7回目になる。 視覚障がいの生徒さんたちは、耳で聴き取り、肌で感じとる能力が素晴らしい。俳優たちは“語る技術”を駆使して物語や言葉を伝える。「森の中」のシーンでは鳥や動物の声、身近な小道具を使って風の音なども表現し、また、生徒さんの席のすぐそばまで行って扇などでそよ風を送り、臨場感を感じてもらえるようにする。敏感な彼らの感覚を刺激しすぎないように細心の注意を払いながらも、生徒さんとの交流をはかりながらドラマを伝えていく。
終わったときに、「面白かった!」「風が来た!」「動物の声が楽しかった!」と口々に伝えてくれるその言葉に、ほっと胸をなでおろした。 表現をする者たちは、すべての方に伝えるための創意工夫を常に重ねていくことが大切だろう。 近頃では、通常の公演日程の中に「バリアフリー」の日を設定する演劇公演も増えてきた。 多くの舞台で、当たり前のこととして、誰もがともに鑑賞できるようになりたいと願っている。 (宮田慶子 白河文化交流館コミネス館長)