人はいつからでも輝ける 歴史を変えた56歳・荻島順子、フィジーク女王として挑む決意のシーズンを語る
そんな荻島の大会シーズンが間もなく始まろうとしている。初戦となるのは7月6日~7日に開催されるIFBBアジア選手権大会だ。その後も国内で階級別決戦の日本クラス別選手権大会(9月8日)、日本女子フィジーク選手権大会(10月6日)と大舞台に挑んでいく。そして年末には最大目標であるIFBB世界女子選手権大会(12月17日~19日)も控えている。真価が問われる女王としての初シーズン、荻島は己のすべてを懸けて決戦に挑む。 「大会が近くなったら『負けてはいけない』とかプレッシャーを感じるのかもしれないんですけど、なるべく平常心で挑みたいです。自分が日々やるべきことをやっていけば、絶対結果はついてくるので、それをやっていけばいいかなと思っています。自分の中で最高の体をつくって、最高のコンディションで挑んで1位じゃなかったとしたら、それはまわりの方がもっとすごかっただけなので、その時は何も気にしません。自分がやることをやるだけです」 昨年、IFBB世界フィットネス&ボディビル選手権の女子フィジーク163cm以下級では3位の成績を収めた。そこで得た経験と見つかった改善点は彼女をさらなる高みへと導いている。今シーズンのボディメイクのテーマは「世界で勝てる体」。ポイントは脚の太さプラス、上半身の厚みと広がりだ。
「昨年の世界選手権で最初に感じた課題が脚と背中でした。帯同してくださった先生方からは『とくに脚だね』とアドバイスをいただいています。ヒザが悪くてあまり高重量で下半身のトレーニングができないので、重すぎない重量でなるべく効果的に効かせられるように試行錯誤しています。上半身はローイング系のトレーニングやチンニングなどで広背筋の下部に効かせることを意識して取り組んでいます。また、昨年は肌の質感が好評だったこともあって、今年はスキンケアにも力を入れています」 世界最高峰の舞台で優勝すれば、世間の注目を集めることができる。それは女子フィジークの魅力を伝えることにもつながると荻島は考える。単なる一競技者としてではなく、日本の女王として競技界全体への影響も意識するようになった。 「女性でもきちんと考えて、食事やトレーニングに一生懸命向き合っていればちゃんと筋肉はつくし、体をつくり上げられます。それを一番感じられるのが女子フィジークの魅力だと思っています。各部位の筋肉の発達度やバランス、脂肪の薄さが他の女子カテゴリーよりも評価されますし、表現力も大きな審査項目です。女性ならではの筋肉美を見せるという意味で、ビキニフィットネスやボディフィットネスとはまた違う魅力があると思います。女子の競技でフリーポーズがあるのは国内の女性個人カテゴリーだと女子フィジークだけなので、そこにも注目してほしいですね。私自身、今年は魅せるステージを体現できるように練習してきました」 かつては「自信がない」と口にしていたこともあった。しかし、今は違う。 「やるべきことをやるという意味では気持ちは変わらないんですけど、今年は何より、日本の女王として恥ずかしくない体でステージに上がれるように仕上げてきました。単なる目標ではなくて『チャンピオンらしい姿を必ず見せる』と決意しています」 人は何歳からでも輝くことができる。競技との出会いが心身を変え、「1位にはなれない自分」というコンプレックスすらも解き放った。積み上げてきた自信と女王の誇りは、もう揺らぐことがない。
取材・文/森本雄大 写真/木村雄大、本人提供