梅沢富美男、2年前に中耳炎で左耳聴力失うも母の言葉で前向きに 病気も芝居も「足りなければ補えばいい」
ワイドショーなどでの歯に衣(きぬ)着せぬ発言で「ご意見番」としても知られる俳優の梅沢富美男(74)は、2022年に中耳炎を患い、左耳がほとんど聞こえなくなった。一時は俳優業から退くことも考えていたが、医師から掛けられたある言葉をきっかけに、約40年前の母の言葉が突如よみがえって視界が開け、前向きに活動していく意欲が湧いてきたという。(高柳 哲人) 【写真】「優しそうな奥様」美人妻の誕生日祝いに2ショット 2年前の2月。就寝中の梅沢を突如、猛烈な痛みが襲った。 「寝ている時に耳が死ぬほど痛くなって、目が覚めたんです。まさに七転八倒の痛み。その後に、耳から血のようなものが『タラーッ』と流れ出てきた。それから左耳が全く聞こえなくなっちゃったんです」。医師の診断は、左耳の中耳炎。鼻から細菌などが耳の方に入り、鼓膜の内側で炎症を起こしたことで鼓膜が破れたと言われた。 「いくつかの病院に行ったのですが、同じだったのは『鼓膜が破れて良かったですね』ということ。もし内側で炎症を起こしていたら、切開してうみを出すための手術をしないといけなかったそうです」。その後、2週間ほどで鼓膜は再生したが、聴力は元に戻らなかった。 1歳7か月で初舞台を踏み、15歳から60年近く芸能活動を続けてきた影響で、もともと右耳の聴力が落ちていた。そこへ来ての左耳の聴力低下。「舞台はマイクをつけずに声を張るのでまだいいんだけど、テレビはモゴモゴ言っている感じで聞こえない。そうすると、芝居の『間』が取れないんですね。『困ったな、こりゃ』と」。そんな時、医師から補聴器をつけることを勧められた。 だが、最初は「補聴器をつけるのは恥ずかしい」と思っていたという。「やっぱり、おじいちゃんって思われるのが嫌だし。だからお医者さんに言われた時に『ちょっと恥ずかしい』と話したんですね」。その梅沢の答えに、医師は「梅沢さん、何で眼鏡をかけているんですか?」と聞いてきたという。 「『僕は近眼だから』と話すと『眼鏡は恥ずかしくなくて、補聴器は恥ずかしいんですか?』と。その時ですね。ずっと昔に母に言われたことが、頭の中にパーッとよみがえったんです」。それが、女優でもあった母・龍千代さんからの「足りなければ補えばいい」という言葉だった。 美しい女形で「下町の玉三郎」として知られるようになり、絶大な人気を集めていた30代の頃。梅沢は舞台の上で葛藤していた。 「舞台役者というのは『今日は芝居がイマイチだったな』と思う日もあれば『うまく演じられた』という日もある。でも、お客さんからは失敗したと思った時に『良かった』と褒められ、自分がいいと思った時には反応が良くなかったということがあったんです。だから『オレのこの芝居が分からないのか?』と不満だったんですね」。そのイライラを龍千代さんにぶつけたところ、2つのことを諭されたという。 「1つ目は『お前はお客さんの目線に立っていない』ということ。役者はステージに立つから、どうしても目線が高くなる。だから、どこかで客を見下ろしているんだ。それをお客さんの目線にまで下げれば、いい芝居ができるはずだ、と」。そして、もうひとつが「ある程度、自信があっても、100点は取れない。お前だって苦手な役はあるでしょ?」という言葉だった。 「能力以上のものを出すのは無理だということですね。そう言われて、ちょっと反抗的に『じゃあ、どうすればいいんだよ!』と聞いたら『足りないものは何かに頼ったりして補っていけば、思い通りのものが描けるんじゃない?』と言われたんです」。当時もハッとさせられたそうだが、40年の歳月を経て、同じ言葉が再び梅沢の心を揺さぶった。 03年にウイルス性胃腸炎で緊急入院した経験はあるが、もともと体は丈夫な方だった。「僕は世の中で何が嫌いかと言ったら、蛇とお医者さん。白衣を見ると、おなかが痛くなるくらい。それは若い頃からで、舞台でけがをしても『唾をつけておけば治るから』と言ってたくらいなんで(笑)」。そんな梅沢が、母親の助言を思い出した後は、すぐに医師の言葉を聞き、補聴器をつけることを決めた。「どこかで、見栄(みえ)を張ってたんだな、と。40年間、忘れていたんだな…」 現在、梅沢は心臓弁膜症早期発見のために心音チェックなどを促す、疾患啓発キャンペーンCMに出演している。梅沢自身は症状があるわけではなく「『別に心臓が悪くないのに、何でオレのところに(CM出演依頼が)来たんだ?』という思いはありました」。それでも出演を決めたのは、関係者からの「ぜひ、梅沢さんに」というラブコールがあったのも大きな理由だが、「自分が呼びかけることで、誰かを補ってあげられるなら」という気持ちもあったという。 「『人間、いつ死ぬか分からない。だから怖いものなんてないんだ』『オレは一人で大丈夫だ』と偉そうに言う人がいる。でも本当は怖いし、大丈夫じゃない。自分がそうだったから分かる。それが、(中耳炎を患ったことで)自分に対して『何気取ってるんだ、このクソジジイ』(笑)と思えるようになったんです」 これまで、ほとんど大病をしたこともなく、健康だったからこそ知る機会がなかった「周りの人の意見を聞き入れ、何かに頼ればいい」という思い。「遅まきながら、その重要性を知りました」という梅沢は「どこかで、誰かにすがることって大切なんですよ」と呼びかけた。
報知新聞社