皇室民主化の象徴だった戦後「旧皇族」の皇籍離脱 成城大教授・森暢平
皇族は世間を知らないから、余計なことは耳に入れないほうがよいなどと特別な存在と扱ってきたと春仁は指摘する。「カーテンは君達の方が作つたんじゃないか」と記者たちを叱った。 春仁が強調したかったのは、臣籍降下する旧皇族は、天皇と国民の間に立つ役割を果たすということだった。戦後の新生皇室と国民は「たがいに心を合わせて日本再建に進むという関係」となるはずだと春仁は考えた。そのなかにあり、天皇家と国民の間に立つ役回りを強調したのである。 ◇コロッケは高いので…庶民生活を強調 実際、春仁は、その後も気軽にメディアの取材に応じて、平民ぶりをアピールし、間接的に「皇室の民主化」に貢献した。漫画家の近藤日出造は47年11月ごろに春仁を取材し、似顔絵漫画付きの訪問記を書いた(婦人誌『ホーム』48年1月号)。「宮様といふものは黄金(こがね)の箸(はし)で飯を食ひ、便所の中までお供(とも)がついて、首うなだれ畏(かしこま)つてゐるものだと思つてゐたのですが、さほどでもなかつたんですねェ」と冗談を言う日出造。これに対し、春仁は、「便所は勿論、今は街を歩くにも、供はを〔お〕りませんな。家内なぞは、その辺のお惣菜屋でコロッケ買はうと思つたが、あんまり高価(たか)いのでやめた、といつた程度の庶民生活ですよ、ハッハッ」と応じた。 実際の春仁は、財産税物納を免れた土地の切り売りで、使用人を維持しながら庶民とは掛け離れた生活を送っていた。しかし、メディアはその点は強調しなかった。 皇籍離脱して、戦前にはなかった自由を得た旧皇族たち。52(昭和27)年、日本が独立を回復した後、社会のなかからも、旧皇族たちの間からも、皇籍復活を主張する声はなかった。それにもかかわらず、皇籍離脱から77年が経(た)った今、時計の針を戦前に戻し、皇室の「非民主化」を行うことがはたして妥当なのだろうか。 (以下次号) (成城大教授 森暢平) ■もり・ようへい
成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など 6月25日発売の「サンデー毎日 7月7日号」には、ほかにも「怒涛のステルス増税が家計を襲う」「2024年都知事選 水面下でうごめく小池百合子と蓮舫の組織票」「2024年度版 熱中症にならない酷暑対策」などの記事も掲載しています。