《追悼》「死がやっぱり一番怖いですよ」「大嘘をついてこそホラー」楳図かずお(88)が語った恐怖と不条理の関係
――楳図さんは「子供」、「少年・少女」を描き続けてらっしゃいますが、『わたしは真悟』を含む後期の作品は、青年誌で発表されているんですよね。「だからこそ子供を描くんだ」と主張され、子供がテーマの作品を描き継いでいらっしゃった。一方で、私が『わたしは真悟』を最初に読んだのは18歳ぐらいなんですが、あの作品はある程度年を重ねないと真のすごさが分からないものだとも思うんです。楳図さん自身は、子供をテーマにした作品を同世代の子供に読んでほしいという思いが強いのか、むしろ大人になってしまった人間たちにもあるはずの子供性を狙って描かれているのか、どちらなんでしょうか。 楳図 子供が読んで内容を理解してもらうというのはちょっと難しいと思うんですね。昔子供だった大人の人たちに、「ああ、私たちもあんなようなことはあったねえ」というふうな見方をしていただいたほうが、素直に作品を見てもらえるかなと思うんです。 どうして青年誌でも子供をいっぱい描いたのかというと、子供が出てくる話のほうが、僕にとっては気持ちがいいんですね。子供って大人よりは動きは活発だけれども、ヘンな常識とか権力とかがない。どんなにバカバカしいことが起きても、「いや、ほんとだねえ」とか、「そんなのあるの?」とかって乗ってくれる。大人を描いていると、その登場人物自体がもう僕に向かって「私にあんまりちょっかい出さないで」と言っているような感じに見えてくるんですよ。「好き勝手言わないでください」とか、そんなふうに見えてくるんですね。 現実では起こらなそうな、飛躍した話を描くには子供が出てくるほうがいい。そういう意味で、僕のお話作りの基本は、おとぎばなしとか昔話とか、そこなんだろうなぁと思うんです。
――新作の『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』も、冒頭に「これはロボットにおきたおとぎばなしです」ということばが置かれていました。 楳図 ロボットにおとぎばなしがあると面白いだろうなあ、と思ったんですよ。そこがすごく新しいかなあ、と。そこの設定を作ったうえで、ストーリーというよりかは、僕が普段いろいろ考えてしまうような、気になる要素を集めて一つにまとめたら、こういうふうになりましたという感じなんです。 例えば、あまりに進化しすぎたものって、ちょっと弱いですよね。分かりよい例で言ったら、木の洞に指を突っ込んで虫を捕って食べている猿は、指一本だけ長いんです。ああいう進化は、間違った進化だと思うんですよね。状況がガラッと変わった時に対応できないで、滅びるだろうなあと思ってしまう。でも、今の世の中で起きているのは、どっちかって言うとそういうイヤな進化ですよね。 だから僕、間違った進化の仕方をした時、そうなりそうになった時には、退化をしましょうと言いたいんですよ。元に戻る、ということなんですけどね。退化して元に戻ることのどこがすごいかと言ったら、何にでも応用が利くようになるんです。原始的になればなるほど応用範囲が広くなって、生命として強くなるんです。強くなったうえで方向を定めて、また進化すればいい。そのためにも、退化することが必要なんじゃないかと思うんです。