食べられる「ゼニゴケ」があるって本当? おいしくて地球温暖化も防ぐ“ゼニゴケ”の最新研究とは
ジメジメした庭の片すみや道ばたに生えているコケ。このコケを食べるなんて、想像すらしないのがふつうですよね。そんな常識をくつがえし、コケのなかまである「ゼニゴケ」をおいしく、地球環境にもやさしい未来の食品として、世の中に送り出していこうという研究が進んでいます。小中学生向けのニュース月刊誌『ジュニアエラ2024年10月号』(朝日新聞出版)からお届けします。 【写真】オムレツや天ぷら、クッキーまで「ゼニゴケ」料理の写真はこちら! ■神戸大学大学院の「植物の専門家」同士がコラボ 植物は5億年ほど前、水中で生活していた緑藻類(シャジクモやアオミドロのなかま)から進化して、陸上に進出した。それ以来、さまざまな植物が現れたが、最初の陸上植物に近い体のしくみを持っているのが「コケ植物」と考えられている。 神戸大学大学院理学研究科教授の石崎公庸さんは「植物分子生物学」という分野の専門家で、コケ植物のゼニゴケを使って、植物がどのように環境に関わり、体のしくみを進化させてきたかを研究している。 神戸大学大学院農学研究科教授の水谷正治さんは、「植物代謝工学」という分野の専門家で、植物を使って有用な物質をつくる研究を行っている。研究では、植物の体内に特定の遺伝子を入れて目的の物質をつくらせるが、ふつうの植物では、1個の遺伝子を入れるだけで1年ぐらい時間がかかり、研究が効率よく進まないという悩みを抱えていた。 そんなある日、水谷さんは、石崎さんのゼニゴケの研究を知り、「自分の研究にゼニゴケが使えるのでは?」とひらめいた。ゼニゴケは成長が非常に速く、遺伝子を入れるのも簡単だとわかったからだ。
■成長の速さに注目し、薬の原料などをつくるために活用 「私の研究の場合、ふつうの植物で1年かかるところが、ゼニゴケなら1カ月でできるのです。しかも、一度に遺伝子を五つ、六つと入れられます。ゼニゴケを有用な物質をつくる研究に使わない手はない! そう思って3年前、石崎さんに共同研究の提案をしました」(水谷さん) ゼニゴケは成長が速くてすぐに繁殖することから、盆栽などの世界では「厄介者」とされている。しかし、発想を転換すれば、そんなゼニゴケの特徴を役立つように利用できるというわけだ。 こうして二人の共同研究はスタートし、やがて二つの計画が立てられた。一つは、水谷さんの専門である、ゼニゴケにビタミン、ポリフェノール(※)、薬の原料などをつくらせる研究を進め、できた製品を販売していこうという計画。もう一つは、ゼニゴケを食品として広めていこうという計画だ。 ※ポリフェノール=植物が持つ苦みや渋み、色素の成分。老化やさまざまな病気を防ぐ効果があると考えられている。 ■研究室で育てたゼニゴケがおいしい理由は? 私たちの食べ物の大半は植物だ。米や麦、イモ類、野菜、果物などは、被子植物の実や茎・葉・根などを食べている。被子植物以外では、裸子植物(ギンナン、松の実など)、シダ植物(ワラビ、ゼンマイなど)がたまに食卓にのぼるが、コケ植物はまったく食べられていない。理由は、「まずいから」。自然の中で育っているゼニゴケは、虫やウイルスなどの病原体、乾燥などのストレスに抵抗するため、有毒成分を蓄えていることが多い。そのため、まずくて食べられないのだ。 一方、石崎さんが研究室で栽培しているゼニゴケは、30年ほど前、京都の宝ケ池で採集した株で、それが今も栽培され続けている。食品にしようとしているのは、このような研究室で栽培するゼニゴケだ。