水族館「あわしまマリンパーク」を再オープンさせた男。その挑戦と『ラブライブ』愛
■閉館の報を聞いて当時の館長に直談判 常連客であること以外には縁もゆかりもない立場だったが、今村氏はニュースを見てすぐに、当時の館長に電話をかけて直談判した。 「最後にお別れイベントがあったのですが、全国から大勢のファンが集まっていたんです。なぜこれほど支持されているのに閉館しなければならないのか、納得いかない気持ちが大きかったですね」 そこで詳しい事情を調べ始めたところ、経営的な問題や施設の老朽化など、多くの課題が絡み合っていることが判明。しかしその過程で、前経営陣から「株式の8割を買い取ってくれるなら、営業を続けてくれて構わない」との言質を得た。躍起になって新たな出資者を探し、どうにか資金の工面に成功。負債額は2億数千万円ともいわれる。 「僕自身は大した人間ではないしお金持ちでもないですけど、長くメディアに携わってきたおかげで、スポンサーを探すことくらいはできそうだと思ったんです。でも、これが甘かったですね。 大多数の人は僕のようにあわしまマリンパークに特別な思い入れなどないわけですから、門前払いばかり。最終的に出資をお願いして回った数は200人を超えました」 今でこそ放送作家を本業とする今村クニト氏だが、もともとはお笑い芸人だった経歴がある。「ピーピングトム」というコンビ名に聞き覚えのある古いお笑いファンもいるのではないだろうか。 NHK新人演芸大賞では東京代表としてノミネートされたこともある、知る人ぞ知る実力派だったが、今村氏が放送作家として活躍するようになったこともあり、コンビとしては近年は開店休業状態。それが転じて、こうして伝統ある水族館の経営者に収まったのだから人生はわからない。 7月の営業再開から3ヵ月強がたった。今村氏は今、何を思うのか。 「水族館ですから魚はもちろん、イルカやアシカ、ペンギンなど、多くの動物を抱えています。ところが、経営者として僕はあまりにも素人で、人件費やエサ代などの維持費だけでも月額600万円かかるという事実を社長になってから知りました。 7月から営業を再開したのはいいものの、当初はイルカショーをやる準備も整っていなかったので集客が見込めず、それらのコストを僕個人の借金で賄わなければなりませんでした。たまに『放送作家から経営者への華麗なる転身』みたいに言う人もいますけど、とんでもない。本当にいっぱいいっぱいの状態ですから」 それでも、「お願いして回ることが社長としての僕の唯一の役割」と割り切り、債権者やファン、そして芸能界で培ってきた人脈に協力を仰ぎ続けたことから、あわしまマリンパークは少しずつ客足を取り戻しつつあるという。 「54歳にもなって何をやっているんだと思いますけど、芸人仲間をはじめテレビ業界の人が無償で協力を申し出てくれるたびに、僕自身がもっともっと頑張らなければと決意を新たにしています」