ロシア・ウクライナ戦争、中国の影響力拡大…「地政学」の視点は一体どう役に立つのか
なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか? 「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおす地政学の入門書『戦争の地政学』が重版を重ね、5刷のロングセラーになっている。 【写真】日本人が知らない「プーチンのヤバすぎる…」 地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは?
構造的な傾向への洞察が持つ有用性
地政学の視点が、不変的な地理的条件から生まれる「構造的な要因」の「傾向」に着目するがゆえに、安定的な国際情勢の構造の解明と合わせて、意外にも国際情勢が流動性の度合いを高めた時にも、高い有用性を示す場合がある。 地政学の視点で説明される構造的な安定性の仕組みと、地政学の視点で明らかになる構造的な事情による変化がある。 比喩を用いれば、たとえば、何らかの突発的な事件によって、家屋が物理的に壊れたり、地形が変わったりすることすらあるとしよう。 しかし時がたつと、新しい家屋が再建され、地形すら元の形状に戻る力が働いたりする。多くの人々がその町に住みたがっている、その地形は自然環境に応じて形成される、といった構造的な要因によって、歴史的な流れの傾向が決まってくる。 国際政治においても、冷戦体制の構造は長く続いた、ソ連の崩壊によってその構造は崩れた、というように長期的な動向と、突発的な変化とが、交互に起こり得る。そこに地政学の視点を導入すると、それぞれの事象をめぐる構造的な要因による傾向が見出されてくることになる。 20世紀の国際秩序の構造転換はどのような反発を誘発しがちなのか。なぜ冷戦体制は長期に安定した構造となったのか。ソ連の崩壊によって生じた冷戦体制の終焉は、次にどのような揺り戻しの傾向を経験する世界を予期させるのか。 これらの大局的かつ長期的な傾向をとらえなくては答えることができない問いに対して、構造的な要因による傾向への洞察を提供する地政学の視点は、大きな有用性を持っていく。 私自身、20世紀の国際秩序の構造転換の余波、冷戦体制の継続性の基盤、冷戦終焉後世界の流動性の要因、などについて、様々な形で考えてきた。それぞれのテーマに即した著作や論文も公刊してきた。時には地政学の視点を明示的に参照したし、時には紙幅の関係などもあって参照しなかった。 だがいずれの場合においても、地政学の視点は念頭にあった。あるいは仕事を重ねるにつれて、地政学への視点への関心は高まった。『戦争の地政学』は、その意味では、研究者としての私にとって、いささか追加的ではあっても、必然的な仕事である。