医療脱毛大手「アリシアクリニック」破産…債権者数9万人超の前途多難【経済ニュースの核心】
【経済ニュースの核心】 合併症・後遺症の発生や医師・看護師経験のないスタッフが日常的に施術……。「美容医療」を巡るトラブルの多発が社会問題化する中で起きた“破綻劇”に、顧客の間でも、さらには所管の厚生労働省内でも困惑と混乱が広がっている。 【写真】「日本電解」経営破綻が波紋…上場企業では今年初、再建の道筋いまだ見えず 医療脱毛サロン「アリシアクリニック」を全国展開する運営2法人の倒産で、今月10日、東京地裁から自己破産手続き開始の決定を受けた。債権者数は、前払い料金などを支払って同クリニックを利用していた顧客ら「過去最大級」(信用調査会社関係者)となる9万1818人にのぼる。金融筋からは「破綻処理を進めるにしても、そもそも債権者集会を開けるのか」といった声も漏れる。 自己破産したのは、医療法人社団「美実会」(さいたま市)と一般社団法人「八桜会」(東京・豊島)。全身の医療レーザー脱毛などの施術を行うクリニックを前者は43店舗、後者は約20店舗で展開。有名タレントやモデルを起用したテレビCM・Web広告を繰り広げる一方、人気インフルエンサーにPRを依頼するなど大規模な広告宣伝とマーケティング戦略で顧客を開拓。美実会は21年4月期で163億円超の売上高を計上していた。 しかし、過大な広告宣伝費などが重荷となり業績が悪化。利用者増を狙って打ち出した低価格戦略もアダとなり、23年4月期には美実会が最終赤字に転落。最近は「資金繰りの逼迫も囁かれていた」(美容業界筋)という。負債総額は2法人合わせて124億7133万円。 従業員約1500人は10日付でひとまず全員解雇され、事業も停止した。 問題は「果たしてスポンサーが見つかるかどうか」(金融関係者)だろう。支援企業が現れれば債権の一部は引き継がれる可能性があり、顧客は多少なりとも救われる。事業再開も視野に入り、従業員再雇用の公算もなくはない。 だが、その実現性は極めて薄そうだ。法人側はホームページなどで、前払い利用料を現金で支払った顧客に対し「(未施術分の)返金は困難」などと通告。クレジットカード払いの顧客に対しても「カード会社と直接交渉」するよう突き放しているからだ。顧客はお金も返らず、やり残した施術も受けられないまま見捨てられるわけだ。 まさに踏んだり蹴ったり。「アリシア」の背負った“罪”は限りなく重い。 (重道武司/経済ジャーナリスト)