「4人殺してこの辺に潜伏していた…」ゆるっとしたタイトルに隠された“裏テーマ”が血なまぐさい『東京降りたことのない駅』とは(レビュー)
西武新宿線の都立家政駅で下車。ちょっと変わった駅名の由来を探りつつ、「かせい」にちなんだ火星人のオブジェ(ちばてつや原画! )を鑑賞するような、まったり街歩きがこんな一言で急に血なまぐさくなる。 「4人殺してこの辺に潜伏していたらしいんですね」 足を向けるのは、昭和43年に起きた連続射殺事件の犯人が借りていたアパートがあった場所。〈世紀の犯罪者が隠れ住む街にしては、昔もいまもごく平均的な、なんの特色もない、平凡なエリアであった〉。 著者は『全裸監督 村西とおる伝』などで知られ、アングラ文化に詳しいノンフィクション作家。アンダーグラウンドシリーズなどディープな街ルポも手がけている。 本書は、初めて降りる駅を起点に街をめぐってみるという企画。ゆるいタイトルで油断していたけれど、グルメや観光情報は二の次。テレビのお散歩番組などが取り上げようとしない〈裏スポットを訪ねる、というのが隠れテーマなのだ〉。街の人たちから話を聞きながら、その土地で起きた事件・事故の痕跡や非主流文化の記憶を探して歩く。 JR常磐線の三河島駅では、戦後最悪級の列車転覆事故で最後まで身元が判明しなかった男性について考察する。京成押上線・京成立石駅ではかつての売春地帯の面影をたどる。東京モノレールの天空橋駅で紹介されるのは、機動隊との衝突で学生が死亡した新左翼系闘争だ。 特定の場所を目指して旅をするのではなく、たまたま訪ねたらそこにも……という構成がいい。〈どんなに退屈な景色でも、裏側には様々な悲喜劇が横たわっている〉という言葉に納得。目を凝らすことで、ありふれた風景も全然違ったものに見えてくることを再認識させてくれる。 きっと誰にでも、気にも留めずに通り過ぎていた駅や街がたくさんあるはず。ふらっと降りてみたら、ささやかな冒険が始まるかも。 [レビュアー]篠原知存(ライター) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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